第五十四話 ノラ(元野良猫)とセールとアズールとランとイオと少々シンザ(元ノラ)とロドとニヴィとジヴィ
音を立てずにシンザがセールの前まで歩いて来てセールの顔を見上げた
「っ!?」
シンザと目を合わせたセールが声を上げた
「みみ、いたかった」
頭の上を押さえて涙目になりながらセールをじっと見た
「あら、始めてアズールが家に来た時のことかしら?」
ランが呟いた
「え?」
「あなたノラちゃんの耳を思い切り掴んだのよ」
「は?」
「ほら、さっさと謝りなさい」
「ああ」
「耳を掴んで悪かった」
セールは恐る恐るシンザの頭を撫でた
「ん・・・」
セールが頭を撫でると、シンザがくすぐったそうに笑った
「ノラ」
アズールが呼びかけるとシンザがパッと駆け寄ってアズールに頭を擦り付けた
「兄さん!!」
慌てたセールが机にぶつかった
机の上に置いてあったものが床に落ちて大きな音を立てた
シンザがびくっと肩を震わせると勢いよく顔を上げてアズールをじっと見た
「かんで、ごめん」
「いなくなって、ごめん」
アズールを見上げていたシンザの目から涙があふれた
「ありがとう」
アズールがシンザの頭を優しく撫でた
「俺の方こそありがとう」
シンザがランとイオを見つめて言った
「ありがとう」
「「私たちこそありがとう」」
微笑み返したランとイオが堪え切れずに涙をこぼすとそれぞれアズールとロドが寄り添った
シンザがゆっくり辺りを見回した
辛そうな顔をしたセールを見つけると駆け寄って顔を見上げた
「俺のせいで・・・」
シンザが手を伸ばしてセールの頬に触れると、セールがびくりと震えた
「あったかい」
「え?」
「よかった」
シンザが満面の笑みを浮かべてセールを見た
「かあさんみたいに、つめたくならなくて」
アズールとラン、イオとセールが息を呑んだ
「よかった」
「ありがとう」
目を薄っすら赤くしたセールがシンザを見つめた
「しんざ、のらじゃない」
「だいじょうぶ」
シンザの言葉にセールが目を見開くと、静かに涙を流した
それを見たランが顔をゆがめると、アズールがそっと背中を撫ぜた
「私そんなこと気付きもしなかった・・・」
「俺もだ、セール自身も気付いていなかったようだ」
シンザはもう一度皆を見渡すと微笑んで言った
「ずっと、ありがとう」
そう言うと突然その場に崩れ落ちた
シンザが床にぶつかる前に駆け寄ったセールがシンザの体を支えた
「よかった」
セールがシンザを抱き締めた
すやすやと寝息を立てて寝ているシンザに皆が胸を撫で下ろした
「シンザを寝かせて来ます」
セールがシンザを横抱きにして持ち上げるとアズールをキッと見た
「ああ」
苦笑したアズールが答えると大事そうにシンザを抱えてセールが居間を出て行った
「セール、良い顔になったわね」
「そうだな」
ランがアズールに寄り添った
「それにしても、本当に猫らしくない猫だったな」
「ええ、ベルデちゃんの言い方を借りれば“中に人が入っているような”猫ちゃんですものね」
ランとアズールがくすくす笑い合った
背後では、イオとロドが顔を寄せ合って話し込んでいた
ふと、ランとアズールが庭に目をやるとジヴィとニヴィが楽しそうに走り回っていた




