第五話 アズールと野良猫
来たときと同じように裏口から出たアズールは、鍵の閉まる音を聞きながら自分を睨み付けていたリュイの顔を思い出してにやりと笑った
「しばらく、この話題で楽しめそうだな」
ベルデがリュイに抱き付いたのを見届けて、こっそり部屋を後にした
見送ってくれた“彼”にも伝言したし、“友達”も動き始めたころだろう、ポケットから先ほど返す際に抜いておいた紙を取り出して眺める
「やり返そうなんて気が起きないくらい上手くやらないとね、とても楽しそうだ」
楽しそうに呟いたアズールの顔を見た野良猫が尻尾を膨らませて体勢を低くし威嚇した
「嫌だな、動物は嫌いじゃないよ?」
アズールと視線の合った瞬間一目散に走って逃げた野良猫に微笑んだ
「良い判断だ」
「あら、どうしたの?」
野良猫が走っていった方から声が聞こえた
「今日は人が多いから驚いたの?大丈夫よ?」
声の合間に猫がごろごろと機嫌良く喉をならす音が聞こえた
野良猫が彼女の手に自分の頭をこすりつけてからンニャと短く鳴いた
「もう大丈夫そうね、セールが待ってるからもう行かなきゃ」
彼女が去るとあくびをした後、毛づくろいをし始めた野良猫にアズールがそっと近づいた
しっかり首の後ろをつまむように持ち上げると、ウギャァーと大きな鳴き声を上げて暴れ出した
「おい、野良」
暴れていた野良猫がアズールと目が合うと、ぴたりと鳴き止んで耳を後ろに倒し、そっぽを向いた
大人しくなった野良猫を抱きかかえると、そっぽを向いたままの耳の後ろを優しく撫でた
段々身体の力を抜いて行く野良猫に思わずアズールがくすくす笑うと、野良猫がこちらを見上げた
先ほどまで自分を撫でていたアズールの指をペロリと舐めると、野良猫はニャァーンと鳴いた
期待を込めたような目で野良猫に見られたアズールは首の後ろを優しく毛の流れにそって撫でる
腕の中の野良猫がアズールの腕に顎を乗せてごろごろと喉を鳴らし始めた
「野良、うちに来るか?」
野良猫が顔を上げてアズールをじっと見つめた
ゆっくり尻尾を振りだした野良猫の顎をアズールが撫でた
「来るか?」
アズールが手を離すと野良猫がンニャと短く鳴いて頭をこすりつけて来た
野良猫を一旦地面に降ろすと、ポケットからハンカチを取り出してこちらを見上げている野良猫の首に巻き付けた
「今はこれしかないんだ、すまんな」
巻き終えたアズールの手を野良猫がペロリと舐めた
「さあ、行くか」
歩き始めたアズールに尻尾をぴんと立てた野良猫が続いた