第四十二話 セールとシンザ(元ノラ)とイオ
落ち着いて来たシンザが顔を上げると、後ろを振り返ったセールと目が合った
「ほら、行くぞ」
少し離れて歩いていたシンザにセールが手を差し出すと、その手をとったシンザが嬉しそうに微笑んだ
もうすぐ家に着くところで、反対側から歩いて来たイオと出くわした
「あら、本当に帰って来たのね」
少し驚いた顔をしたイオにセールがため息をついた
「皆して同じことを言う・・・」
「仕方ないじゃない、本当に帰って来てるんだから・・・」
同じようにため息をついたイオが、つないだままのセールとシンザの手を見て微笑んだ
シンザがイオの視線を辿ってつないだままになっている手に気付いて外そうとすると、セールがシンザの手を握りしめてイオに見えないように自分に引き寄せた
シンザが頬を染めて俯いた
イオが、赤くなったセールの耳と俯いたシンザを見て笑顔を浮かべるとセールの耳元にささやいた
「シンザ綺麗になったでしょ?うかうかしていると危ないわよ」
途端に不機嫌になったセールをイオがくすくす笑うと、シンザが顔を上げて首を傾けた
「姉さん、どうしたの?」
「煮え切らない“弟”に発破をかけただけよ?ねぇ、セール?」
にやりと笑ったイオにセールが悔しそうな顔をした
「誰が、“弟”だ!」
嫌そうに叫んだセールをイオとシンザが声を上げて笑った
「そう言えば姉さん、散歩でもしてたの?」
「いえ、手紙を出しに行って・・・」
不思議そうな顔をしたセールと目をきらきらさせているシンザを見たイオが2人から目を逸らした
「文通でも始めたのか?」
「あのね!」
「ええ、そうなのよ、話の合う人が見つかってね」
シンザの声を遮るようにイオがセールに答えた
「そうか、よかったな」
「ありがとう」
むぅっと唸って頬を膨らませたシンザを不思議そうに見ながらセールがイオに話しかけえると、イオがわずかに微笑んで答えた
「ここから店に通うの?」
イオがセールに尋ねると、セールが唸った
「そうするつもりだったんだが、注文が入ったからしばらく店に詰めることもあるかもしれないな」
「へえー、シンザ、セールと店を続けるの?」
真面目な顔で何かを考え始めたセールを見たイオが、シンザに問いかけた
「え、今受けた注文はセールがいないと駄目なのよ」
わざと曖昧な答えを返したシンザをイオが問い詰めた
「その後はどうするつもりなの?」
「えっと、セールが良ければ一緒に店をやっていきたい、けど・・・」
シンザが話を続けようとした瞬間、隣にいるセールが低い声でシンザの話を遮った
「シンザ?今の注文を終えたら他の職人を雇うつもりなのかな?」
「え?」
シンザが慌ててセールを見上げると、穏やかに微笑んでいるセールと目が合った
「シンザ?」
「あれ?セール何か怒ってる?」
不思議そうな顔をしてセールを見上げているシンザに呼びかけると、恐る恐るシンザが口を開いた
「怒ってないよ?」
セールが微笑みながらシンザに答えた
何故かセールの顔を見たイオが吹き出したが、セールは穏やかな顔のままイオを一瞥するとシンザを見下ろした
「セールは、(店の)パートナーになってくれる?」
シンザが不安そうに大事な部分を省略してセールに問いかけると、セールが目を見開いて固まった
イオが堪え切れずに笑い声を上げた
「姉さん?」
「あはは、本当にシンザは!」
イオの声に我に返ったセールが顔を片手で覆ってうずくまった
(分かっている、勘違いはしていない・・・が、シンザの天然さが時々怖い!)
セールがうずくまったまま動かないのを見たシンザが心配そうに声をかけた
「どうしたの、セール?大丈夫?」
「シンザ、セールがわざわざ店を出した知らせを聞いて帰って来たのにシンザの店以外どこで働くのよ・・・」
耳を赤くしてうずくまったセールを見たイオが全く伝わっていないセールの思いを不憫に思って、シンザに問いかけるとシンザが驚いて叫んだ
「ええええええ!?」
「気付いてなかったの!?」
イオがセールを可哀想なものを見るような目で見下ろすと、やっと立ち直ったセールが顔を上げて立ち上がるとシンザに宣言した
「ということで、シンザの“店の”パートナーは俺だ」
「あ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな」
セールがシンザの頭をぽんぽんと軽く叩くと、シンザが満面の笑みを浮かべた
笑いすぎて薄っすら涙目になっていたイオがシンザとイオを見て微笑んだ




