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大切な人たちとの日々  作者: MIK
それぞれの道
36/94

第三十六話 シンザ(元ノラ)とセールと兄弟子

シンザは外から店を眺めると、扉を開けて中に入った

しばらく使われていなかったためにあちこちに埃が積もっている

カウンターの前に持ってきた大きな鞄を置くと中に回り込んで店内を見回してから、のれんをめくってカウンター裏にあるトイレと給湯室兼事務スペースを覗き込んだ

奥の階段を上るとミニキッチンの付いている壁の無いひと続きの空間が広がっていたミニキッチンに立って部屋を見渡すと一部出っ張った壁にドアが付いているのを見つけて開くと中に簡易シャワーが付いていた

階段を降りると先ほどは気付かなかったカウンター横の扉を見つけた

ドアを開くと中は職人の作業スペースになっていた

「ここは、しばらく倉庫代わりに使えばいいわね」

シンザが弾んだ声を上げた

「師匠が家賃は出世払いでいいと言っていたけど、こんなに素敵なお店をお祝いに貸してくれるなんて、ありがたいわ」

「しっかりしなくちゃ!」

シンザは気合いを入れるとカウンターの前に置きっぱなしにしていた大きな鞄から掃除道具を取り出して楽しそうに掃除を始めた


見違えるほど綺麗になった店の中を点検し終えた係りの人から認定証を受け取る

「問題はありませんでした」

「お疲れ様です、ありがとうございました」

係りの人が店を出ると、店の中でシンザが飛び跳ねた

「これで、いつでも開店出来るわ!」

階段を上がったシンザはすっかり自分の持ち物が増えて過ごしやすくなった室内を見渡した

新しく置いた机の引き出しを開け、家から持って来ていたまとめて紐で縛ってある紙を取り出した

「やっと、セールに手紙が出せるわ」

シンザは椅子に座ると新しく手紙を書き上げ、紐をといた手紙とともに封筒に入れて封をした

「随分分厚くなってしまったわね・・・」

封をした封筒を手に持ったシンザが苦笑した

店の閉じまりをしたシンザが家に帰る途中に封筒をポストに投函した

同じころイオがセールの手紙の返事をポストに投函していた



セールが届いた2通の手紙に首を傾けていると、部屋のドアを開けて兄弟子が入って来た

「セール!!」

「どうしたんですか?」

慌てている兄弟子をセールが不思議そうな顔で見上げた

「お前、折角賞を取ったのに地元に帰るって本当なのか?」

「はい」

「なんでだ?」

「もともと自分の力を試せたら地元に帰るつもりでしたから、今が丁度良いと思ったんです」

迷いなく笑顔で言い切ったセールに兄弟子がため息をついた

「いつ帰るんだ?」

「師匠に挨拶は済ませてあるので、お土産が準備出来たら帰ろうと思います」

セールの机の上に置かれた箱を見た兄弟子が不思議そうな顔をした

「お前結局それ送らなかったのか?」

「ああ、タイミングを逃したのもあるんですが、気合いを入れ過ぎたのでどうせなら自分で渡そうかなと思ったんです」

「そうか、喜んでくれるといいな、シンザちゃん、今20歳か」

「もうすぐ21歳です、ってあれ?何で知ってるんですか?」

「お前が言ったんじゃないか」

「え?」

驚いたセールの顔を見た兄弟子が満足そうににやりと笑った

兄弟子が部屋を出ると、セールはもう一度机の上に置いた2通の手紙を見た

取りあえず、読み応えのありそうな分厚い方の封筒を後で読もうと荷造りの終わった鞄の中に仕舞った

セールは薄い方の手紙を読み始めた

始めは所々笑いながら読み進めていたが、だんだんと眉間に皺が寄り始め終わりを呼んで勢いよく立ち上がると手に持っていた手紙を鞄に突っ込み

机の上の箱を手に取り部屋から飛び出した

途中で会った兄弟子がセールの顔を見て驚いた

「どうした、真っ青だぞ?」

「すみません、急ですが今から帰ります」

「は!?」

「また、会いましょう!!」

セールが叫びながら走り去った

「一体何なんだ?」

セールの走り去った方を見ながら、兄弟子が呟いた


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