第一話 6
☆☆☆
「っはっ……はぁ、はぁ」
「お?まだ、動けるのかよ?しぶてぇな」
動けない状態の蓮は、肩で、身体全体で呼吸をする。一瞬、呼吸が止まっていたかと思う程息が上がっている。
ただの一撃の突きで、ここまでダメージがでかいことに蓮はある意味、驚嘆していた。
だが、蓮の身体は確実にダメージを受けており、“死”がリアルに迫っていた。あと、数発?いや…あと一発か。
とにかく、またあの突きを喰らえば、唯では済まない。
そして、奴は必ずまた仕掛けてくる。
蓮は、いうことを効かない身体を、必死に動かそうとする。
腕も脚も、腰も胸も、全てが鉛のように重く、動かそうとする度に身体中に鋭い痛みが走る。
まるで、自分の身体ではないような錯覚だった。
鶴田は、動けない蓮を見て、再び攻撃体制に入る。今まで、二度、蓮に拳を撃ち込んだ。
だが、二度とも破壊には至らず、死にかけながらも蓮は、かろうじて生きていた。いささか苛立ち小さく舌打ちをしながら、鶴田は拳を握り締める。
自分自身の拳には、絶対の自信があり、幾度となく闇の眷属達を破壊、粉砕してきた。
次で必ず破壊する。そう決意し、鶴田は、全力で撃ち込む姿勢をとる。
蓮は、ボヤける視界で、鶴田を眺めながら、腕を上げようとする。だが、腕が満足に上がらず、力なくダランと垂れてしまう。
蓮は、力を振り絞り、鶴田に一撃を。
せめて、最後の一撃を入れるために腕を上げる。
そして、ありったけの力を右腕に込め鶴田へと向ける。
鶴田は、蓮の右腕を軽く掴むと、鶴田自身の左腕で力いっぱい、引っ張り、蓮の肩先から右腕を無理矢理引き千切った。
ゴムを千切るような、ぶちぶちと不快な音が鳴る。
「ーーーーー……!!!」
声にならない声が、周囲に響く。
神経の通った腕を肩先から無理矢理引き千切られたのである。いくら蓮が、吸血鬼といえども、腕を引き千切られる痛みは想像を絶する。蓮は、今までにない激痛のなか、それでもなお意識を失わないのは、吸血鬼の異常なまでに高い不死性によるものだった。
蓮は、激痛と大量の出血で意識が遠のきそうになりながらも思考する。右腕を再生させる方法を…自分がかつて右手首を小さなしょぼい果物ナイフで落としてしまった時、エルウィンはどうやって元の状態に戻したか。
(確か…あの時は…)