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黒崎くんは吸血鬼  作者: 工藤啓喜
5/78

第一話 4

☆☆☆


蓮とエルウィンが、貧民街に着くと、辺り一面が、炎で真っ赤になっていた。中の建物は、あらかた燃え尽くしてしまっており、黒く焼け焦げた建物がいくつもあった。


住民達は、無事だろうか。


二人が同じことを考えていると、燃え尽きた瓦礫の隅に、まだ幼い、二人の子供が寄り添って座っていた。


それを見たエルウィンが、子供達の元へと駆け寄った。


子供達は、エルウィンを見るなり、一瞬、身体を硬直させて警戒していたが、優しそうな老人だとわかると、すくっと立ち上がり、エルウィンの側へと近づく。

幸い、子供達に目立った外傷はなく、出血もない。多少の擦り傷はあるものの思いのほか、元気そうだった。


エルウィンは、子供達二人の状態を軽く確認し、問題ないとわかると、安心した様子で、軽く子供達に微笑み、キリッと整っている背広の胸ポケットから、携帯を取り出しどこかへ連絡しはじめた。


一部始終をずっと見ていた蓮は、エルウィン達から視線を外し、ぐるりと貧民街を見回す。

特区の中心部は屋敷の近くと比べると建物の数も、外観も目に見えて違っており、蓮には、正直な話決して綺麗な街とは、思えなかった。むしろ小汚くて小さくてちっぽけな街にすら見えた。


だが、燃え尽きて消し炭のようになってしまった街を見ていると、居た堪れない気持ちになってくる。

それにエルウィンの側にいる子供達も、普通とは少し違っていた。


子供達の片方の女の子は、見た目は、どこにでもいる普通の女の子に見えるが、よく見ると、背中には小さな白い羽根が生えていた。

もう一人の子は、男の子だが、頭には獣のような小さな耳が生えていた。また、尻尾らしきものも生えており、二人が、人間とは違う種族なんだと実感させられた。


蓮は、周りを歩き始める。歩くたびに、炭が靴の底を黒く染めていく。街の至る場所が燃え尽くされており、火の手を逃れた建物は、ほとんど見当たらなかった。

また、火は完全に消し止められた訳ではなく燃え盛っている場所もある。


その暑さで、蓮は額の汗を拭う。


蓮は、額の汗を拭いながら、ふと考えていた。自然に発生した火事にしては、規模が大きい。山火事などの例もあるから、一概にそうも言えないのかも知れないが、今日は空気が乾燥しているわけでもなく、強風が吹いているわけでもない。


蓮が、腑に落ちなさそうに、歩いていると、火事の前にはかつて建物が建っていたであろう、今は黒く焼け焦げた建物の上に、二人組の人影が見えた。


顔は、よく見えなかったが、体格からして、どうやら男性のようだった。

逃げ遅れかと思い、二人組の近くまで蓮は歩いて行く。


「オイオイオイオイ!!まだ、いんじゃねーか。完全に殺ったんじゃねぇのかよ?ったくよ!」

「ふん。確かに」


二人組の会話を聴き、蓮は立ち止まった。建物の上にいる二人の会話の意味を理解するのに、時間がかかる。

殺した?誰を?頭の中で、疑問がぐるぐると駆け回る。


「ったく!聖なる少女ってのを焼き殺した裁きの炎ってのも対したことねぇなあ!オイ」

「…焼き殺したのではなく、裁いたのですよ。ちなみに聖なる少女ではなく、聖女ですよ。鶴田クン」

「ケッ!裁くも殺すも似たようなモンだろうが。ってか鶴田クンは、やめろって言ったろうが井萩サンよう」


細い糸目と長い髪を後ろに縛っている痩せ型の名は井萩という名前らしく、隣にいる茶色の髪を短く刈りこんだ、筋肉隆々の2メートル近い身長のレスラーみたいな男は鶴田と呼ばれていた。


二人のやり取りを黙って聴いていた蓮は、頭の中の疑問が少しずつ霧が晴れていくように、拓けていく感じがした。

つまり…この二人が、火事を起こした原因なのか?もし、そうだとしたら…


蓮の中の疑問が確信に変わりつつあった。


「全員、焼け死んだと思っていたんだがなぁ」

「それもそうなんですけどね…一つ妙なんですよ、鶴田クン。この貧民街は、子供と老人しかいないって資料には、書いてありましたよね?今、私達の前にいる彼。あれ、明らかに若い少年ですよねぇ…」

「あん?んな事書いてあったか?俺は覚えてねーぞ。…覚えてねーが、俺らの前にいるって事は、殺っていいんだよなぁ…井萩ぃぃ!」


などと、物騒なことを言って鶴田はニタァと笑う。

すると、周りの空気が、急に冷たくなる。…この火事は、この二人が人為的に起こしたものだった。


貧民街に、火を放ち、あまつさえ人を殺した?そんな二人がすぐ目の前にいるのに蓮は、その場から動くことが、出来なかった。


その時ーーー


ものすごい風と共に2メートル近い巨体の鶴田と呼ばれる男が、蓮の目の前に現れた。


「悪いな。おめぇに怨みはねぇんだが、とりあえず死んでくれ!!」


鶴田は、拳を硬く握る。ギチギチと何かを締め付けるような音がし、腕の筋肉や身体全体の筋肉が膨らんでいく、鶴田は、硬く握った拳を後ろに引き、真っ直ぐ蓮へと拳を撃ち込む。


蓮は、突然撃ち込まれた拳を、防ぐ間もなく、数メートル近く吹き飛ばされ瓦礫に激しく身体を打ち付けた。


「ごはっ…」


蓮が激しく咳込み、大量の吐血する

下腹部に、打撃を受け、身体の幾つかの骨が砕け内蔵が損傷していることは、医学の知識がない蓮でもわかった。


「はっ!流石に丈夫だな。せいぜい楽愉しませてくれょ…闇の眷属(ナイトメア)さんよぉ!」


鶴田の激しい打撃は、止むことなく、雨あられのように拳の塊が蓮を襲う。


「ぐっ…」


蓮は、何度も殴られていた。普通なら、死んでいてもおかしくないが、蓮は半端ながら吸血鬼故に、ギリギリのところで生きていた。


「っ…く」


痛みを堪え、口から血を流しながら、蓮は立ち上がろうとする。だが、腰が砕けて座りこんでしまい、身体が動かない。


「いいぜぇ。壊れにくい身体ってのは最高だな!!やりたい放題だぜぇ、闇の眷属(ナイトメア)さんよぉ!」

「ぐっーーー!」


蓮が、右手を伸ばし鶴田を殴りつける。右、左と左右交互に拳を打ち込む

「う‥お、オォォォーーー!!」


咆哮と共に、蓮の拳が連続で撃ち込まれる。何度、鶴田に撃ち込んだのか。蓮は、必死で撃ち込み続ける。


すると、鶴田はニタァと笑いながら、何事もないように再び拳を握りしめた。蓮は、それでも尚、拳を撃ち込むむのを止めなかった。


止めてしまえば、確実に撃たれる。


頭の中が、沸騰し身体中が発火しそうな程の勢いで、猛攻を続ける。蓮の咆哮が増していくたびに打撃も激しくなる。猛攻が、激しさを増して行く一方、鶴田は全く意に介した様子がなく握ったままの拳を引き、腰を落とし撃ち込むための動作を始める。


重く、鈍い音が響いたーーー


蓮のガードが間に合う間もなく、激しく吹き飛ばされる。

さっきよりも、強く、重く、激しい打撃。一撃で仕留める。その一点を重視したなんの躊躇いもないただの突き。


蓮は、ちり紙のようにヒラヒラと吹き飛ばされ瓦礫を、破壊しながら、数メートル先まで飛ばされピクリとも動かなくなった。

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