少年Kの独白
ガヤガヤとする教室内。
それもそうだろう。なんたって今日は転入生が来るのだから。女子が来るという噂はもう全校に広まっており、男子が浮き足立っているのが見てすぐにわかった。
教室の奴らの話を聞く限り、転入生はもう学校へ来て会長から学校案内をしてもらった美少女らしい。そんな馬鹿な。あいつの反応を見る限り今日初めて学校に来たようだったしブスではないが美少女ではないだろうと失礼な事を考える。
席につけーと入ってきた進藤センセーにクラスの大半の女子が惚けた目でセンセーを見つめていた。まああのルックスならそうなるよな彼氏もいるのにお気楽なことで。と冷めた考えをしているなんてみんな知らないからキャラっていうのは大事だったりする。
センセーは皆の反応をみてしょうがないと言ったように溜息をついた。わざわざ転入生がどうこう言わずに入って来いとだけ声を張る。教室のドアを開け、入ってきたのは対照的とまではいかないがタイプが大分異なる2人の女子生徒だった。
「えー知ってる者もいるとは思うが、つか、みんな知ってるな。転入生の有栖川 麗花と芹沢 杏だ。半年間だけだがこの3組のクラスメイトだ。仲良くしろよー。男子は色目を使うなー、麗花は俺のものだ」
普段のだらっとした様子から一変、センセーは有栖川の肩を抱き自身に引き寄せた。普段から女気のまるで無いセンセーに限ってこんな。教室内はシーンとした空気になる。それはそうだろう。みんなの顔は俺も含めポカーンだ。すぐに意識を取り戻した女子生徒の「せ、せんせい?」の一言で俺もやっと我に返る。
いつもの進藤センセーじゃない。それは皆も感じているだろう。当の本人は先ほどの女子生徒達に向けられていたような惚けた目で有栖川を見つめている。
「じ、潤先生!ここ教室だから恥ずかしいよぉ…」
「だが、皆に麗花を見られたくない。俺の胸の中で見せてくれればいいんだよ、その花の咲くような笑顔は」
「もう!わがまま言わないの!
みんな、わたし、有栖川 麗花っていいます。仲良くしてね?」
有栖川の自己紹介なんて耳に入らないほどに俺はショックで固まっていた。まさかこんな鳥肌茶番劇を進藤センセーがやるとは思っていなかった。気ダルげだが、なんだかんだ生徒想いのいいセンセー。そんな理想像が呆気なく壊された気がする。そんな時ふと有栖川の隣にいる芹沢を見た。まだ続く二人のやり取りに溜息を吐いている所を見ると、この教室に来る前もイチャイチャしていたらしい。御愁傷様だ。
「今日の放課後ね」
「ええ、隣のクラスの子も誘いましょ」
後ろの方からヒソヒソとそんな話し声が聞こえる。2人とも女なところ、有栖川は転入初日にも関わらず呼び出しを食らうらしい。全くもって同情なんかしないが、進藤センセーのファンクラブ的なものが制裁を下すのだろう。そこら辺の内情は男子である俺はよぬ分からないが、好きな男のためならどんな悪にでもなると言ったところか。これだから女子は陰険で怖いのである。最も目の前でいちゃつくなんて自殺行為をしたのが悪いんだろうが。
そこで何やら視線を感じる。見れば芹沢がこちらをガン見しているではないか。口をパクパクするが、何も言ってこないのは有栖川のように目立たなくするためだろう。相変わらずの間抜け面である。
俺はにひっと笑って芹沢に手を振った。彼女は瞬間むっとこちらを睨むが、何も言ってこない。間抜け面だが、賢い奴である。有栖川の登場によりどうなるかとは思ったが、進藤センセーは放っておけば呑気に残り半年はやっいけるだろう。
「よろしくね!麗花、教科書まだ揃ってないの。見せて?」
綺麗に隣の席で笑う彼女を見て、そうも言ってられなくなったが。