拉致なんだぜ
きゅっと音を立て締める。紺地に金色のラインが入ったネクタイが私の首元に輝いた。今日から新しい学校ーー舟町高校の生徒である。
ばっちゃんから昨日倒れた件もあり、最初は行くのを止められたがそんな事で休んでいたら死ぬのは分かっていた為、気合を入れて支度をした。死ぬって何かって精神的にだ。
東京にいた頃も転校は何回かしたことがあり、その時に身につけたノウハウというかそんなもの。当たり障りないように接したらそれが一番だが、転校初日に休んで次の日学校来たらまあとにかく微妙な空気になる。簡単には説明し辛いが要するに転入生は初日にモテる。人間みんな新しい物が欲しくなるんだ。それは皆同じ。
「あっちゃんご飯出来たよ」
そう言ってばっちゃんが出してきたのはご飯と味噌汁と焼き鮭という和食メニュー。思わず口が引きつってしまった。とても美味しそうだが、毎日トースト1枚で済ませていた私が食べられるのか不安なのだ。
しかし、ばっちゃんがここまで用意してくれて食べない訳にはいかないけどうーーーん。
「いってきまーす」
結局完食。初めて朝に和食を食べたけど、結構食べれるものだ。背後からいってらっしゃいというばっちゃんの声が聞こえ、長屋から出る。
ジリジリとした肌を焼く暑さに昨日思い出す。また倒れたら洒落にならないな、と思い制服に少しバランスが悪いとは思いつつキャップを被った。オシャレよりも体調である。自分が東京育ちなのにこういう所は田舎思考なのかもしれない。
しかし9月だと言うのにこの暑さは異常である。地球温暖化が影響しているのだろうか。
「あつい……」
「キャップかぶってるから涼しそうなんだぜ!」
「学校まで耐えられないんだって」
「あ、ピアスしてるんだぜ!」
「バレなきゃいいんだって………ん?」
今一体自分は誰と話していた?汗がたらりと顎に伝う。
ギギギと機械のようにそちらを振り向くと目に痛いくらいの明るい金髪の少年がいた。少年は自身のネクタイを見せ、同じなんだぜと笑いかけたのだ。
「ちょっとマジで心臓に悪いんだけどやめてください」
「そこまで真顔で言われたら流石の俺でも傷つくんだぜ」
「流石もねぇよお前誰だよ」
おっとまずい。つい反射的に口が悪くなってしまう。こっちに来てからは直すと決めたじゃないか。慌てて口を噤むと金髪はポカンとしてお前口悪いんだぜと笑った。しまった一番知られたくないタイプに知られてしまった。しかも同じ学校ときた。
思うがすぐに金髪のネクタイをぐっと引き、顔を近づけひそりと囁いた。
「学校で私を見ても知らないフリをしろよ」
「えーなんでだよ!お前みたいな女子じゃない女子なかなかいないんだぜ!」
「だぜじゃねぇよ。私は平穏普通に暮らしたいの。絶対他の人に私が口悪いとか素行が悪いとかデマ言わないでよね」
「絶対ボロが出ると思うんだぜ!」
「よし一回歯ァ食いしばれ」
なんだこの失礼ななんだぜ金髪は!と鞄を振り上げてぶつけようとすると前方から慌てたような声が聞こえ、何事かと思い鞄を下ろした。そちらに意識を集中した為か途中金髪の危なかったんだぜ、という声は聞こえなかった。
少しすると背の大きい茶髪の少年が焦ったようにこちらへ来た。
「す、すみません!はぁ、う、うちの、金髪が、迷惑かけま、せん、はぁ、でしたっ、か……!?」
「かけられまくってます」
「!?」
「うわあああごめんなさい!!もう広夢ダメじゃないか!」
「ち、違う!俺っちは悪くないんだぜ!!」
目の前で繰り広げられる男2人にごちゃごちゃに学校へ行かなければ行けない事を告げると、喧嘩紛いはピタリと止まり再び茶髪少年に謝れた。そこまで謝らなくていいのての所でガッと腕を掴まれた。
「ぼ、僕も同じ学校なんです!!!一緒に行きましょう!!!」
そして何も言う前に茶髪の少年が私を俵担ぎし、ダッシュした。え?待てよ。
俵 担 ぎ し 、 ダ ッ シ ュ し た ?
「ぎゃああああああああ!!?!」
神様これって拉致ですか?
待つんだぜー!という金髪の声が妙に頭に響いたのだった。