連れる狐
僕は涙を止められない。虎から話しかけられたときも声の調子がおかしかったようだけれど、そんなことに気を使ってられなかった。
なんで僕は泣いているのだろうか。
理由は分かっている。
ひとつには単純に今こうして自分が生きているという事実に心底安心している。
そして僕は理解してしまった。
親父の気持ちを。
「…っう…っう」
あの人も必至だったんだ。いつも誰かの後ろに隠れて、何もかもから逃げ出して、後ろを向いて、誰かを、親父を、否定して自分のコンプレックスに蓋をして、前を向こうともしなかった僕には分らなかったんだ。虎という、自分よりも大きな存在と相対して初めて分かった。きっとあの人にだって自分が弱いんだってことぐらいは分かっていたんだ。だけどそれでも虚勢を張っていなければならなかった。
彼自身のために。
そして僕のために。
彼は彼自身の身を挺して僕に教えようとしてくれていたんだと思う。彼なりの彼の生き方を。その方法は屈折していて、僕を敵視して、こきおろすという結果になってしまったけれど、それでもこうして今、きちんとこうして僕に伝わった。悔むべきは、あいつがもう生きていないというところだけれど。
こんなに遅くなってしまったけれど、もう伝わらないかもしれないけれど、今だって変わらず大嫌いで、軽蔑していて、思い出すだけで虫唾が走って、今頃遅えよっておもうし、吐き気がするけれど、それでも言いたい。
「ありがとう……クソ親父。」