耳を貸す虎
なんで俺はこいつの話を聞こうとしているのだろうか。
やはり今日の俺は変だ。弱者に肩入れしているのか?理解しようとしているのか?感情移入しようとしているのか?自分に不安を抱いているのか?
しかしそれ以上に気になるのはこいつの目。こいつの目には先ほどまでの諦観のようなものが一切ない。
なぜだ。
俺はいつものように万全を期してこいつに向かった。それでもなお、こいつの今の態度は予想ができなかった。俺の心の乱れが読まれた?確かに普段の俺ならば後ろに立ったところで物音ひとつ鳴らすはずがない。心の乱れが読まれたとしたらそれは読まれたということでいい。しかしだとしても、あの状態から何があったのだろうか。
心境の変化。
心情の変化。
なんでもいい、とにかく変わった。
まるで何かが乗り移ったかのように。
「おい、お前……」
「まぁ、焦らずに。どこから話せばいいでしょうか。」
まあいい、何かあったら喰えばいい。何もなかったら喰えばいい。
「たとえ話をしましょう。今、あなたの目の前に食糧があります。そしてその周りにはあなたを含めたくさんの虎がいます。」
狐は続ける。
「しかし、その食糧を食べることのできるのはあなたのみです。なぜなら、あなた方の集団の長があなたのみ食べることを許し、あなたに食べるようにいったからです。ではこの場合、あなたは自分の力でその食糧を得たといえるでしょうか?」
「…その食糧がどういったものかは分からないが、言えないな、俺はただ長からの恩恵を受けただけだ。あるいは喰わされただけだ。」
「その通りです。では、…かなり話は飛びますが、あなたは自分というものが何かあらかじめ決められた立場にいるような感覚を感じたことはありませんか?あるいは他のものとの差異をあらかじめ決定されたような、設定されたような感じはありませんか?それも自分の届かないところで決められているような。」
「飛び過ぎだな。」
「まあまあ、そう言わず。」
嘘はつけないだろうな……。こいつは本当に俺の心を読んでいるかもしれない。
「ある。」
「そうですよね、そうだと思いました。そのはずです。そうなんです。そして、ここまでが下準備です。ではもし、そんな序列があったんだとしたら、それは誰が決めているんだと思いますか?」
「……?それは当然自分の力で勝ち取って、生きて」
「違います。」
狐はとても強い口調で言い切った。
俺の今までの生き方を断ち切るように、強く。
「確かにあなたは努力し、生きてきた。生きてきたと思ってきた。しかしそれはあなたの働きだけではないのです。あくまであなたは、あらかじめ決められていたあなた自身の役割を果たしてきただけにすぎないのです。」
「な……」
「先ほどのたとえ話を思い出して下さい。あなたは食糧を得ることができましたが、それはあなた自身のはたらきの結果ではない。あなたは外部からの決定によって食糧を『喰う』という役割をはたしただけなのです。そして、役割というのはあなた以外にも与えられている。ありとあらゆるもの、この世の森羅万象に対して。役割というのは外部かつ、目上の立場の者によって決められます。つまり森羅万象の上にいらっしゃるお方、むしろそれらを作ったお方ともいえますが、そのお方は誰でしょう?」
狐は大きく息を吸って言った。
「それは、天におわす神です。」