借られる虎
たとえば世界を「勝者」と「敗者」の二つに分けたとして、恐らく俺は「勝者」に分類されるのだろう。
俺は虎だ。このあたりで最強の肉食獣であるところの俺には恐れるものなど何もない。いや、この言い方は的確でないかもしれない。
もっと言うならば俺は「恐怖」という感情をきちんと理解していないのだろうと思う。別に、狩りをするときに何の恐れもなく狩っているというわけではない。
確かに、草食動物達からの火事場の馬鹿力的な反撃だって考えていないわけではないし、いくら敵がいないからといって俺でも多対一の不利な戦場に飛び込もうだなんて思わない。(もしそんな状況で狩りをやろうなんてするやつがいたら、そいつは強いのでも何でもなくただの愚かなだけだ。)
しかし、結局の所俺は未だに「恐怖」というやつを理解できていない。きっと俺が今やっているのはただの「警戒」なのだろう。
「思い」ではなく「行為」で、「感情」ではなく「反応」なのだろう。
それにやはり、俺にとって「恐怖」というのは与えるものであっても、所詮与えられるものではない。俺だって、この世界で生きてきて何一つ失敗がなかったわけではないが、それにしたって俺は分かってしまっている。俺はこの世界で「勝者」に位置付けられている、と。捕食者と被捕食者の関係。覆ることのない、埋められない圧倒的な差。しかしそんな自分に戸惑いを覚えないこともない。
朝からなにを考えているんだ、俺は。
これから狩りに出る。頭を切り替えなくては。
言いようのない、もやもやを抱えながら俺はゆく。