表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人の欠片

唯一の読み手【2500字】

作者: twilight

今から書く話は実際にあった話です。

登場人物はたったの2人。長さもとても短いと思う。

きっと読むのは私だけだろうし、いつも読んでくれる彼女もこれを読むことはない。

それでも書きたい。

私の親友の優しさを。

私の気持ちの1ページを。


write by Natsumi


「ねぇ、また書いたんだけど読んでくれない?」

私は、朝来たばっかりの親友に対してお願いする。

「あ、いいよ。また、授業中に読んでおけばいいかな?」

軽く承諾を返して冗談をいう遥。

彼女は、近衛このえ はるか

中学から友達で、高校では1年2年と連続して同じクラスという幸運。

来年もできれば一緒がいいなとひそかに願ってたりする。

「いつも言うけど、授業中に読むのはちょっと…。」

私は罪悪感から、ついつい否定的な返事を返してしまう。

そんな私を見て、苦笑しながら遥は言った。

「別に大丈夫だって。次数学でしょ?

あんな先生の授業うけてるのって夏海ぐらいだよ。」

このあたりは、いつもの流れなので互いに気にしない。

このやり取りも心地よい部類にはいるものだった。


その後、宣言通り1時間目の放課には感想が返ってきた。

「基本的には面白かった。

ただ、心理描写がわかりづらい。

その上、戦闘が助長。」

たった、3行のコメントだったけれども、意外と助かっている。

やはり、自分だけでは良し悪しがわからない。

外部の意見というのはたった一人でもありがたいものだ。

実は、私が書いている小説は、遥以外には読んでもらったことがない。

今でこそ、納得して言ってこなくなったが、昔はどうして公開しないのかとよく聞かれたものである。

そのたびに同じ答えを返してきた。

「恥ずかしい。」と。

そのやりとりを何度も繰り返すうちに納得したのかそのことについて触れることはなくなった。


次の日も、変わらず(いつもどおり)渡しては感想を求めていた。

よく考えたらとても迷惑な話だろう。

大して面白くもない素人の話を毎日読まされては、感想を求められるのだから。

そして、その日はやってきた。


その日もいつもの変わらずに小説を渡した。

今回は少し長めで、いつもの2倍近くあったと思う。

すると、昼放課に「今回は感想が長めだから、屋上ではなさない?」と誘われた。

もともと、趣味で書いていることを他の友だちに知られてしまうのは本意じゃなかったので、喜んでついていった。

そして、屋上での第一声。

「もう、読むのにつかれた。」

私は、最初何を言われたのかわからなかった。

それは、遙も予想通りだったみたいで私の反応も聞かずに続ける。

「いやね、実は私、小説読むの嫌いなんだよね。

夏海に小説読んでって頼まれたときは別にいいかなと思ってたんだけど、最近増えてきて返信を返すのが億劫になってしまって。

ちょっと、本題とはずれるけど1つ聞いてもらっていい?」

「うん。」

あまりの内容に私はそう返すのが精一杯だった。

それでも、遥にとっては十分だったらしい。

「私って、すべてのものを利害で考えてるんだよね。

無償の友情とか言うけど、私に言わせればあんなものはないんだよ。

何も求めないっていうけど、それは何らかの利益があるから付き合ってるんだよ。

それは、ものじゃなくてもいい。立場でもいいし、居場所でも、楽しさでも。

それを、計ることができないからって利害を無視してるってのは都合がいいと思うんだよね。

冷たい言い方だけど夏海に対しても例外じゃないよ。

私は、夏海といて楽しいと思ってるからいつも一緒にいるんだよ。

ただね、今回は耐えられなくなっちゃったの。

だからもう読めない。ごめんね。」

その言葉は、私の心に大きく刺さる刃だった。

その痛みに耐えられなくて涙が溢れる。

「じゃあ…私のことは鬱陶しい子としか思ってないの…?」

私はびくびくしながら聞く。

内心は、うなづかれるのがすごく怖かった。


私の居場所がまた1つなくなってしまう。

私のこころを表現する場所がなくなってしまう。


これほど怖いことはなかった。

それでも、遥の言葉は終わらなかった。

「そんなことはないよ。

でもね、私は友達でいたいから自分が嫌なことを抑えておけない人なんだよね。

すごくわがままだと思う。

でもね、遥と絶交したいなんておもってないんだよ。

さっきも言ったけど、あなたとすごしてるのはとても楽しいんだよ?

ただ、私にはこんな表現しかできない。

もし、こんな風に傷つけることでしか心を伝えられない私と付き合うのは嫌かもしれないね。

でも…こんな不器用な私でもまだ付き合ってくれると嬉しいな。

都合のいい言い方だけど、遥ならわかってくれると思って言ってるから。」

その言葉1つ1つが私には嬉しかった。

たった1つの出来事で離れて行ってしまうような友達より、傷つけられたかもしれないけど、本心で話してくれてその上でまだ友達と痛いと言ってくれた親友。

その事実で心がいっぱいだった。

「…うん。私も絶交したくない。

本当は怖かったんだよ。私否定されたのかな…って。」

そう言って、前を見るといつもの調子で笑っている遥がいた。

でも、いつもの違うところもあった。

遥の顔には涙の跡があった。

「やっぱり、すれ違いかけてたんだね。

とても怖かったけど、本心を伝えられてよかった。

じゃあ、教室戻ろうか。

でも…その前に…いい?」

遥は目に涙を溜めて言った。

何も言わなくても…いや、目が言葉の代わりとなっていた。

「うん。」

私の頷きをきっかけに抱き合って大泣きする私達。

その涙はチャイムがなるまで続いた。

私たちの涙はとても…からかった。



その後、私が遥に小説をもっていくことはなくなった。

と言っても、誰かに読んでもらうわけじゃない。

私にとって読者は遥一人。

それ以外の人に読んでもらうつもりはなかった。

と言っても、それ以外にはいままでと何も変わらなかった。

特に仲良くなるわけでもなく、特に離れるわけでもなく。

でも、それはすれ違ったわけじゃない。

互いにぶつかったからこそ得た距離感だった。

もし、すれ違っていたらそのまま離れてしまうかもしれないし、ギリギリで触れて互いに擦り傷をのこしてしまうかもしれない。

けれど、私たちはぶつかった。

それは離れてしまう衝突じゃなくて、互いを確認するための衝突。

その反動のお陰でいまの場所にいる。

とても、幸せだなと思わずにはいられなかった。


PCの中をあさっていたら、出てきた短編です。

こんなものを書いたなぁっていうレベルでいつ書いたのかも不明。


きっと、自分の立場と重ねて書いたんだろうとは思いますが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ