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転生女騎士と前世を知らぬふりする元カレ~二度目の人生で、愛する君は敵だった  作者: アニッキーブラッザー


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第34話 バカな話

「人質? 何をバカなことを!」


 ソロールがハッと息を呑み、次の瞬間には再び剣の柄に手をかけていた。  

 その瞳は、怒りと困惑と、何よりもからかわれて侮辱されているのではないかという感情で燃えていた。


「そんな訳の分からない罠にかかるくらいなら……殺す!」


 だが、


「やめろ、ソロール」


 ソロールの足が地を蹴る寸前、ヴァルドが一歩前に出て、手を伸ばして制した。


「副官、離せ! こいつらは我らを愚弄している! 人質交換だと? ふざけるな!」

「違う。彼女たちは本気だ」


 ヴァルドの声は低く、しかし確信に満ちていた。  

 その言葉に、ソロールの動きが止まる。


「……何?」

「見ろ。ラヴィーネは剣を捨てた。セラフィナ皇女は、帝国の象徴でありながら、ラヴィーネ以外を傍に置かずにここに立っている。しかも、挑発を繰り返して我々を誘い出した。これは、命を賭けた交渉だ」


 ソロールは、ラヴィーネとセラフィナを交互に睨んだ。  

 その目には、まだ怒りが残っていたが、次第に冷静さが戻りつつあった。


「……それでも、罠の可能性はある」

「ならば、考えてみろ。仮にここで我々がこの二人に危害を加えたとしよう。銀翼隊はこの場にいないが、必ず報告は上がる。話し合いを望んだ帝国皇女を殺したとなれば……」


 ヴァルドは、静かに言葉を継いだ。


「帝国は、アマンス隊長を憂いなく処刑するだろう。あの方の命は、交渉の余地なく絶たれる。そして、我々残党は皆殺し。元王国の民たちも、帝国民の怒りの捌け口として容赦なく奴隷に叩き落とされるかもしれない」


 その言葉に、ソロールの顔が強張った。


「……そんな……」

「だからこそ、無闇に動くな。これは、最後の機会かもしれない。彼女たちが命を賭けて差し出した交渉の場だ。ならば、我々もその覚悟に応えるべきだ」


 沈黙が落ちた。  

 ソロールは、剣から手を離し、深く息を吐きながら再び落ち着く。

 そして、ヴァルドはラヴィーネとセラフィナを見据えたまま、低く問いかけた。


「しかし、そなたたちを使って人質交渉とは……どういうことだ?」


 その声には、冷静さと警戒が混じっていた。  

 ソロールも、剣の柄から手を離したまま、険しい表情で二人を睨んでいる。

 ラヴィーネが一歩前に出て、静かに答えた。


「私一人では、交渉になりません。帝国は私を『勇者』として扱ってはいますが、政治的な重みは姫様ほどではない。私が捕らわれたところで、帝国は動かない可能性が高い」


 セラフィナが、扇を軽く仰ぎながら言葉を継ぐ。


「逆に、私一人が攫われた場合……帝国は即座に奪還作戦を発動するでしょう。交渉の余地など与えず、残党狩りを徹底するはずですわ」


 ラヴィーネが頷く。


「だからこそ、私と姫様……勇者と皇女、二人同時に攫うということに意味があるのです。帝国にとっても、無視できない事態となる。交渉の余地が生まれる」


 セラフィナは、ニヤリと笑みを浮かべた。


「そして、二対一の交換……我々二人と、アマンス一人。帝国は、体面と損得を秤にかけて、必ず解放に応じるでしょう」


 沈黙が落ちた。  

 ヴァルドは、しばらく考え込むように目を伏せた。  

 ソロールは、まだ納得しきれない様子で、低く唸る。


「……だが、それでは人質交換直後に我らは皆殺しではないか?」


 その言葉に、空気が再び張り詰める。  

 ヴァルドの懸念は当然だった。  

 帝国が交渉に応じたとしても、交換後に残党を一掃する可能性は十分にある。

 セラフィナは、ふっと笑みを浮かべた。


「そうはさせませんわ」


 その声は、静かだったが確信に満ちていた。  

 ラヴィーネも、真剣な表情で言葉を継ぐ。


「人質解放の場を……公衆の面前……すなわち民衆全てが注目する帝都中央で行いますわ」

「……ッ!?」

「体面を気にするお父様たちですが……流石に全帝都民注目を集める場……当然、そこには他国の間者などの目も紛れ込んでいますわ。そのような場で非道な行いはあらゆる信を失うことになるはずですわ」


 と、セラフィナが「本当に帝国の皇女か?」という悪だくみを述べて皆がゾッとする。

 だが、引きつりながらもラヴィーネも頷き、言葉を続ける。


「そして、我々はただの人質ではありません。交換の場……その地、その瞬間で、互いに納得のいかない『かつての戦いの決着』をつけさせる」


 その言葉にヴァルドが眉をひそめる。


「……決着?」

「はい。互いに人質と捕虜として開放された同士……アマンスと私が、真の決着をつけるための一騎打ちを、その場で行うのです」


 その言葉に、ソロールが目を見開いた。


「一騎打ち……!」


 セラフィナは、扇を閉じて腰に当てながら、満足げに微笑む。


「帝国と王国の象徴が、互いの誇りを賭けて剣を交える。それは、民衆にも、重鎮にも、兵士にも……納得のいく『終わり』を示すでしょう」



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