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転生女騎士と前世を知らぬふりする元カレ~二度目の人生で、愛する君は敵だった  作者: アニッキーブラッザー


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第30話 アマンスの腹心

 応接室での一件から数時間後。  

 ラヴィーネと銀翼隊は、新たにセラフィナを交えて話を進めることとなった。

 セラフィナ皇女。  

 帝国の象徴であり、政治と軍略の両面に通じる傑物。  

 彼女が自ら議論の場に加わるという事態に、銀翼隊の面々は驚きながらも、どこか頼もしさを感じていた。

 ラヴィーネは、机の端に立ち、資料を広げながら口を開いた。


「……姫様がこの場に加わってくださるとは、光栄です」


 セラフィナは、優雅に椅子に腰掛け、扇を膝に置いたまま微笑んだ。


「光栄などではありませんわ。あなたが『好きな人を救いたい』とまで言ったのですもの。ならば、私も少しは手を貸して差し上げますわ(そして最後に私が彼を寝取った時に貴方がどんな反応をするのか楽しみですわ~)」


 セラフィナの器に、ミリアが「すごい……」と小声で呟き、カイルは「マジで女神っすね」と感嘆した。  

 レオニスは黙って頷き、ラヴィーネは深く頭を下げた。

 そして改めて話を進める。


「さて、ではどうやってアマンスを牢から出すのか。ですが……この間の隠密の侵入もありますから、流石にしばらくは許可されないですわね」


 セラフィナの言葉に、空気が重くなる。

 先日、アマンスの忠臣たちが帝都に忍び込み、彼を奪還しようとした。  

 その行動はラヴィーネと銀翼隊の対応で未遂に終わったが、帝国の警戒は一気に強まった。  

 その影響で、アマンスの処遇についてまた議論が起こったりした。

 もっともそれもセラフィナが登場したことでその議会はウヤムヤになったのだが、どちらにせよまだ帝国もアマンスの処遇を決めかねているというのが実際のところ。

 今は帝国の勇者であるラヴィーネの進言を受け入れて、重鎮たちは様子見をしている段階である。


「……確かに、あの件は痛手でした。しかも、アマンスは姫様が持ち掛けた、『いうことを聞けば忠臣たちを罪に問わない』という取引にも応じませんでした……」

「ええ……そうでしたわね」


 セラフィナは、眉をひそめる。

 だが、そこでふと副官のレオニスが口を開いた。


「そういえば、あの夜に侵入していた隠密たち……その後は特に見かけませんし、情報も入って来ませんが……どうしたのでしょう?」


 その言葉に、場の空気がわずかに動いた。  

 銀翼隊の面々が顔を見合わせる。


「そういえば……」

「まさか、諦めた?」

「そんなはずないだろ」

「特にあの隠密の女は、『死んでもアマンス様を助ける』みたいに叫んでたしな。あの執念、尋常じゃなかった」


 ラヴィーネは黙っていた。  

 あの夜、帝都の通りで交戦した隠密たち。  

 アマンスへの想いは、ただの上官と部下ではなく、それこそ共に命を懸けて戦う「仲間」という印象を持たせる者たちだった。

 するとセラフィナは、扇を止めて言った。


「戦後行方不明になっている、王国のアマンス直下の兵……そしてラヴィーネの報告ではそれなりの手練れの『女』だったと……調べたところ、該当しそうな人物は……ソロール。元王国騎士団の副長。アマンスの側近だった人物ですわ」


 その名が告げられた瞬間、銀翼隊の面々は目を丸くした。


「ソロール……ああ、確かに名前だけなら聞いたことあります」

「副長って……あの女が?」

「本来なら、俺たちが調べなきゃならない情報だ……」


 セラフィナは独自の情報網ですでにそこまで把握していた。  

 改めてセラフィナの力を思い知らされる。

 しかし、セラフィナの調査はそれだけでは終わっていなかった。



「ちなみに、ソロールにはかつて兄が居て……その兄はアマンスの同期にして、かつてはあのアマンスの父である王国大将軍の部隊に所属していたそうですわ……もっとも、大将軍が戦死した戦でその兄も戦死したようですけれど」


「「「「えっ……」」」」



 その言葉に、銀翼隊の空気が一変した。

 セラフィナは、どこか意地悪な笑みを浮かべながら扇を仰ぐ。  

 その意味を、銀翼隊の誰もが理解していた。


「ひ、姫様……つまりそれは……」


 アマンスの父である王国大将軍を討ち取ったのは、ラヴィーネだった。  

 そして、その戦で彼の部隊を壊滅させたのも、ラヴィーネ率いる銀翼隊だった。

 つまり……


「ええ、ソロールの兄を討ち取ったのはあなたたちですわね」


 その言葉に沈黙が落ちる。  

 誰もが、ラヴィーネの表情をうかがった。

 彼女は、静かに目を閉じていた。  

 その瞳の奥には、過去の戦場が浮かんでいた。

 あの戦いは、帝国にとっては勝利だった。  

 あれが王国に致命的な損失を与えて帝国に大きな益をもたらせた。

 一方で、アマンスにとっては父を、仲間を、多くのモノを失った戦いだった。


「つまり、ソロールにとってあなたたちは兄の仇。そんなあなたたちがアマンスとの一騎打ちを穢して捕虜にして王国を滅亡させた……ここまで来ると神の悪戯にもほどがある運命の巡りあわせですわね」


 ラヴィーネの皮肉の言葉に、銀翼隊の面々は思わず顔をしかめた。


「……まいったな」

「これは……さすがに重すぎる」

「ソレも戦争だから……と言いたいところではあるがな……」

「そうじゃ。少なくともあの戦は正々堂々じゃったはず」


 戦争だから仕方のないこと。自分たち帝国側とて死者はいた。

 そう言うことは簡単だ。だが、人の心はそう簡単に割り切れるものではないというのも十分に分かっていた。

 だからこそ、銀翼隊の面々も悩ましかった。

 だが……


「……ソロール……か」


 ラヴィーネは少し違った。  

 顎に手を当てて、しばらく考え込んでいた。

 そして、静かに口を開いた。


「あのとき、ソロールは私と対峙したとき……私を仇としてではなく、アマンスに関する憎しみの方をぶつけていた」


 その言葉に、セラフィナが眉をひそめる。


「……どういう意味ですの?」


 ラヴィーネは、ゆっくりと顔を上げた。


「つまり、ソロールにとっては……兄の仇である私よりも、アマンスに対する感情の方が強かった。彼女は、私を憎んでいるというより、アマンスを奪われたこと、アマンスの誇りを穢したことに怒っていた」


 ミリアが目を見開いた。


「それって……」

「ソロールにとって、アマンスは自分の憎しみ以上に大切な存在なのだろう」


 ラヴィーネの声は、静かだった。  

 だが、その言葉には確かな確信があった。

 セラフィナは、扇を止めたまま、ラヴィーネを見つめる。


「で……それが、どうしたのです?」


 そう、それが事実だったとして、それが何か重要なことなのか? 

 これにはセラフィナだけでなく、銀翼隊の面々もラヴィーネの真意が分からなかった。

 すると、ラヴィーネは……



「つまり、自分の憎しみよりもアマンスを大切に思っているのであれば……あやつは、アマンスを救うための相談をすれば協力を得られるやも……」


「「「「「は?????」」」」」

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