あーちゃん
あーちゃんが すきなのはね、おえかきと、おままごとと、おすなばと、きゅうしょくと、
それからね、どろだんご。
どろだんごはね、きのう はじめて まるめたんだけどね、あーちゃんのは、ちゃあんと まんまるくなったよ。
おててに どろが いっぱいついて、しばらくしたら かわいて、しろくなって、がさがさになって、なんか かいじゅうの て みたいで、ちょっと かっこよかったよ。
みっくんは、せっかく まんまるくなったのに、せんせいに みせようとして ころんで わっちゃって、いっぱい ないてたよ。
あーちゃんのは われなかったよ。
ちゃあんと ぎゅうにゅうぱっくにいれて げたばこに しまったよ。
つぎは みがくんだって。
うんと みがくと、ぴかぴかに なるんだって。
あーちゃん いっぱい みがくよ。おつきさまくらい まんまるで ぴっかぴかの おだんごさん つくるよ。たのしみだなあ。はやく あしたに ならないかなあ。
でも、どろで おようふくが よごれちゃった。
まま、おこるかな。
☆☆☆
おててに すとっきんぐを はめて、こしこし こしこし こするよ。
どっじぼーるが とくいな ゆうとくんも、れんじゃーごっこが すきな はるとくんも、きょうは えんがわに じいっと すわって、だまって おだんごを こすってる。
あーちゃんも こすってる。
こしこし こしこし こすってる。
あーちゃんの おだんごさんは、まだ ちょっと しろっぽいから、いっぱい いっぱい こすらなきゃ いけない。
でもね、きょうは ちからが でないんだ。
きのうは ゆうごはん たべてないから。
おようふくを よごした ばつだって、ままが いってた。
あさは、ままが いそがしかったから、ぎゅうにゅうを のんだだけ。
おなかが すいたなあ。
きゅうしょく まだかなあ。
あ、きゅうしょくしつから、いいにおいが してきたよ。
きょうの きゅうしょく、なにかなあ。
あーちゃん、ほいくえんの きゅうしょく だいすき。
いちばん すきなのは、かれーらいすで、つぎが すぱげてぃで、つぎが おうどんで、つぎが まぜごはん。
あーちゃんの すきな きゅうしょくかなあ。
はやく たべたいなあ。
なんでも たべるよ。
にがてな ぴーまんも、ちゃんと たべるよ。
なんか げんきが でてきたよ。いっぱい こすって、ぴかぴか おつきさまに するよ。
おようふくを よごさないように、きをつけて。
☆☆☆
おひるねは ねまきに おきがえして ねんねするよ。
あーちゃん ねんねは すきだけど、おきがえは あんまり すきじゃない。
だって、ぼたんを とめるの むずかしいから。
もう ゆりぐみさんだから みんな ひとりで できるのに、どうして あーちゃんは できないんだろう。
みずのせんせいが、ぼたんの とめかたを おしえて くれた。
たての あなに、ぼたんの あたまを くぐらせるんだって。
そんなこと わかってるよ。
でもね、おててが いうことを きいて くれないの。
ぼたんも いうことを きいて くれないの。
おうちでは、いつも てぃーしゃつ きてるよ。
てぃーしゃつなら はやく きがえられるよ。うんと はやいよ。おきがえが おそいと、ままが おこるから。
ほいくえんは、ぼたんのある ねまきじゃなきゃ いけないから、いやだなあ。
でも、がんばろう。
おててが ぶるぶる するけど、あ、もうちょっとで とおりそう。
「あれ、彩夏ちゃん、ちょっとお腹見せて」
きゅうに みずのせんせいが おおきなこえを だしたから、びっくりして ぼたん はなしちゃった。
せっかく とおりそうだったのに。ひどいよ、みずのせんせい。
くやしくて なみだが でてきたよ。
でも せんせいは ちっとも きづかないで、せっかく とめられそうだった ぼたんも はずして、あーちゃんの おなかを じいっと みた。
「彩夏ちゃん、この跡、どうしたの」
あと?
おなかに むらさきの もようが みっつ ついてた。
きのうのよる、おじちゃんに つねられた ところ。
おじちゃんは かようびと もくようびに くるひと。
だいじな おともだちだって、ままが いってた。
あーちゃんは おじちゃんが こわい。
あーちゃんが わるいことを すると、おこるから。
とっても とっても、こわいから。
でも、ままは おじちゃんが くると、わらうよ。
おさけを のみながら、おおきな こえで わらうよ。
きっと ままは おじちゃんが すき。
だから あーちゃんも、おじちゃんが すき。
「わかんない」
みずのせんせいは かなしそうな かおで あーちゃんを じいっと みた。
あーちゃんは ままが すき。
だから、おじちゃんも すき。
☆☆☆
あーちゃんの だいすきな おえかきを したよ。
くれよんを つかって、えんそくの えを かいたよ。
いちばん たのしかったことを かくんだって。
えんそくで たのしかったことは。
ばすに のったこと、みんなで あるいたこと、こうえんで あそんだこと、みんなみんな たのしかったけど、あーちゃんが いちばん たのしかったのはね、おべんとう。
ままが あさ はやく おきて、つくって くれた おべんとう。
おかずはね、こんびにの おそうざいだから いつもと おんなじ あじだったけど、だいすきな みにとまとが はいってたよ。
でもね、でもね、あーちゃんがいちばんうれしかったのは、ままが おにぎりを つくってくれたことなんだよ。
あーちゃんの だいすきな、こんぶの おにぎり。
すごく すごく おいしかったよ。
だから あーちゃんは、おべんとうを たべている えを かいたよ。
みなちゃんと、かなちゃんと、みんなでたべているところを かいたよ。
とっても じょうずだって みずのせんせいが ほめてくれたよ。
あーちゃん えっへんって しちゃったよ。
おひるねの あとは どろだんごを みがいたよ。
あーちゃんの どろだんご、すこうし つるつる してきたよ。
おひさまを あびると、しろく ひかるよ。
でも、りんちゃんの おだんごが いちばん ひかってる。
りんちゃんは おむかえが いちばん おそいから、ながい じかん みがけるんだって。
そうっと さわらせて もらったよ。
つるんつるんで びっくりしたよ。
れんくんが おじいちゃんの あたまに そっくりだって いったから、わらったよ。
りんちゃんも せんせいも みんなも わらったよ。
あーちゃんの おだんごも、はやく つんつるりんに なれ。
おじいちゃんの あたまみたいに つんつるりんに なれ。
☆☆☆
きのうから ままの きげんが わるい。
むすっとして なんにも しゃべらないかと おもうと、きゅうに おおきなこえで あーちゃんを どなる。
ほいくえんに おむかえに きてくれたとき、みずのせんせいと なにか ずうっと おはなししてて、それから きげんが わるくなった。
なんだろう。
つかれてるのかな。
いそがしいのかな。
でも、きょうの あさは こんびにの おにぎりを ちゃあんと よういして くれてた。
かみのけも めずらしく とかして くれた。
なんだろう。
あーちゃんのことで おこってるんじゃ ないのかな。
わかんない。
わかんない。
わかんないけど、こしこし こする。
こしこし こしこし こするよ。
いっぱい こすって、ぴっかぴかの おだんごに するよ。
ぴっかぴかの おだんごが できたら、ままに ぷれぜんと するんだ。
いつも おしごと ありがとうって おてがみも つけるんだ。
そうしたら、きっと まま よろこんでくれるよ。
あーちゃんのこと ぎゅって だっこして くれるよ。
☆☆☆
あーちゃんの どろだんご ぴっかぴかに なったよ。
おつきさまよりも まんまるで、てつのたま みたいに かたくて、くろくて、つるつるで、ぴっかぴかに なったよ。
そうっと もちあげて みたら、どろだんごに あーちゃんの おかおが、うつったよ。
ゆりぐみで いちばんだって みずのせんせいが いってくれた。
りんちゃんも めをまんまるにして、すごいねって いってくれた。
あーちゃん ほんとうに うれしかった。
ままに おてがみを かこうと おもって おへやに はいろうと したとき、ゆうとくんと、はるとくんと、りょうくんと、みなちゃんが、みんな おしあいへしあい しながら あーちゃんの おだんごに さわろうと した。
ゆうとくんが おだんごの いれものを とろうとして ひっぱった。
あーちゃんは だめぇって おおきなこえを だした。
いれものが すこし やぶけて、おだんごが おちそうに なった。
あーちゃんは ゆうとくんを どんした。
かたのところを、つよく おした。
ゆうとくんは、ひっくりかえって、ごんって おとがして、しばらくしてから おおごえで なきだした。
みずのせんせいが はしって きた。
あーちゃんを おしのけて、ゆうとくんのそばに しゃがんで、それから ゆうとくんと いっしょに いむしつに はいっていった。
えんちょうせんせいが どうして けんかになったのって きいたから、あーちゃんは どろだんごが こわれそうになったからって いった。
そうしたら えんちょうせんせいは まゆげとまゆげの あいだに しわしわを いっぱい つくった。
「そうなの。でも、押したのはよくないよ。謝ろうね」
どうして? わるいのは ゆうとくんだよ。
「手を出したらダメなのよ。言葉で言わないと」
わるいことしたら、ぴんされてあたりまえなんだよ。
「彩夏ちゃん、悪いことをしたら謝るのよ」
あーちゃんは なんにも わるくないよ。なんで あやまらなきゃいけないの。
☆☆☆
ままの おむかえは いつもより はやかった。
ままは いつもみたいに すぐに くらすに こないで、しょくいんしつに はいって いった。
ぺこぺこ あたまを さげて いる ままの かげが まどに うつって みえた。
あーちゃんは、おかえりの したくを して、うわぎを きて、くつを はいて、どろだんごを もって ままを まっていた。
おといれに いきたい かんじが したけど、ままを またせると おこられるから やめた。
しょくいんしつから ままが でてきた。
えんちょうせんせい みたいに、まゆげとまゆげの あいだに しわしわが なんぼんも できていた。
あーちゃんは おだんごを ままに みせようと おもって、ぎゅうにゅうぱっくを もった みぎてを ままの ほうに のばした。
ほら、これ、あーちゃんがつくったんだよ。
うんと にっこりの おかおで いおうとした とき、
ままの みぎてが あーちゃんの ほっぺたに とんできた。
ぱあんと たかい おとが した。
ほっぺが じいんと あつくなって、
からだが ななめに なって、
ぎゅうにゅうぱっくと おだんごが てから はなれて、
ほんの すこうし そらを とんで、
おつきさまよりも まんまるで、てつのたま みたいに かたくて、くろくて、つるつるで、ぴっかぴかだった あーちゃんの どろだんごは、
ろうかの まんなかに おっこちて、よっつに われて、
しろっぽくて かさかさした ただの つちの かけらに なった。