Hellsing
その吸血鬼、二代目のハーメルンの笛吹き男たる彼、ここでは仮にアルカードと呼ぼう。アルカードはペーター少年の望みを叶えていくうちに別の目的があるだろうことは察していた。ただ、まさかその目的が実の父親を殺させることであろうとは、そう言われるまで気づかなかった、らしい。
アルカードには目的があった。三代目のハーメルンの笛吹き男を見つけるという目的が。そして、彼の目の前にこそ、おあつらえ向きの存在がいたのだ。
「わかったよ、ペーター。…けど僕からも少しお願いがあるんだ。」
「…なに?」
「君の家の中、一つ一つの部屋にニンニクの花を飾って欲しいんだ。なぁに、軽いおまじないだよ。」
ご存知ないかもしれないがニンニクの花を吸血鬼は嫌う。
「そして、森に少し入ったところで目を瞑っていて欲しいんだ。君のお父さんをどう殺すか、見られてはいけないんだよ。」
結果、ペーター少年は彼の言った通りのことをし、当然の如く彼に噛まれた。
「これがことの顛末のようです。」
「つまり、野生児ピーターは吸血鬼であると?ヘルシング教授。」
王室関係者はオランダから来た老教授に怪訝な目を向けながら問うた。
「正確には、異なります。吸血鬼に噛まれた者は不死の呪いを受けます。そうなれば噛まれた者は死ぬまで吸血鬼の言いなり、いわゆる催眠状態となります。そして、その命が終わることで―」
「吸血鬼となる、と。」
教授の言葉を遮りながら出された結論を聞き、教授は静かにうなづいた。王室関係者はふぅとため息をつきながら、続けた。
「生前、ピーターはろくに人間らしい生活ができなかったそうだが、これもまぁアルカードとやらの催眠、と考えれば合点はいくか。」
「ピーターが死んで百年ほど経ちますが何の被害もないということは吸血鬼としても既に死亡した、と考えても問題はなさそうですな。」
「そうだな。まぁ後はこちらで何とかする。今回は協力感謝する、ヘルシング教授。」
荷物をまとめ部屋を出ようとする教授に、王室関係者は最後、教授へある疑問について訪ねた。
「しかし、なぜピーター、いやペーター・リヒテルだったのだろうな。」
「私も全てをアルカードから教えられたわけではございませんので。…さて、なぜでしょうな。」
「…不思議だな。」
「しかし、一つわかることもあります。蛙の子は蛙、吸血鬼に子供はできませんが、それぞれのハーメルンの笛吹き男には通ずるところがあるのやもしれませんな。」