表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4章:秒速リクの、奇妙な日常

美術館でのあの日以来、僕の日常は、レジーナによって完全にひっくり返された。

朝、目覚まし時計が鳴る。

けれど、その音は奇妙に伸びて聞こえるかと思えば、突然加速して、僕が起きる前に鳴り止んでしまう。

レジーナの気まぐれな「時間調整」の始まりだ。


登校中、友達と喋っていると、僕だけがスローモーションになる。

みんなが僕の何倍もの速さで動いているから、まるで僕が遅い亀になったみたい。

「リク、どうしたんだよ、今日のろのろだな!」なんて言われても、レジーナのせいとは言えない。

たまに、僕だけ時間が超スピードになることもあるから、みんなが固まっている間に、僕はとんでもない距離を移動してしまう。


一番困ったのは、宿題の時間だ。

集中して鉛筆を走らせていると、急に時間が早送りになる。

あっという間にノートが文字で埋まって、気づけば次の日の宿題まで終わっていることもあった。

けれど、今度は僕がゆっくりになって、宿題が全然進まないこともある。

「どうして僕だけこんな目に…」僕はよく天井を睨みつけた。


レジーナは、そんな僕のドタバタを見て、いつも優雅に笑っている。

「まぁ、そんなに時間を無駄にしないでくださいな、リク。これも、時間を慈しむための修行ですわ。」

彼女は僕のすぐ隣に、フワリと現れる。

薄い金色のドレスが、僕の部屋の薄暗い光の中でも、まるで月光を浴びているように輝く。


「修行なんていらない! 早く、普通の時間に戻してくれよ!」

僕は叫ぶけれど、レジーナは首を振るだけ。

「焦ってばかりでは、本当に大切なものを見失いますわよ。あなたは今、この瞬間にも、たくさんの素晴らしいものを見過ごしていますわ。」

彼女の瞳は、いつも僕を真っ直ぐに見つめている。

その目は、時に優しく、時に厳しかった。


ある日、学校の帰り道。

僕はいつものように、未来のことばかり考えて、足元もろくに見ずに走っていた。

すると、突然時間がスローになった。

目の前の地面に、小さな影が揺れている。

レジーナの仕業だ。


僕はゆっくりと視線を落とした。

そこには、小さなアリの行列が、せっせと何かを運んでいるのが見えた。

普段なら、絶対に見向きもしない光景だ。

でも、時間がゆっくりになっているから、彼らの懸命な働きが、やけに鮮明に見える。

彼らは、今、この瞬間を一生懸命生きている。


レジーナが僕の隣に現れた。

「ご覧なさい、リク。小さな命も、今を精一杯生きていますわ。あなたには、彼らのように、たった一つの瞬間を大切にする心が足りませんわ。」

彼女の言葉が、初めて、僕の心にストンと落ちてきた気がした。

焦りすぎて、僕は、本当に何も見ていなかったのかもしれない。

アリの行列を見つめる僕の心の中で、何かが、ほんの少しだけ、変わり始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ