第3章:時間のワルツと、ドタバタの幕開け
「あなたのような焦りばかりの人間のせいかもしれませんわね」
レジーナの声が、僕の耳の奥でこだました。
なんだか、ものすごく嫌な予感がした。
僕が何か言う前に、レジーナはすっと手を伸ばし、僕の額にそっと触れた。
ひんやりとして、でもどこか吸い込まれるような感覚。
その瞬間、僕の視界がぐにゃりと歪んだ。
周りのクラスメイトや先生が、急にスローモーションになったかと思えば、次の瞬間には、倍速で動き出した。
まるで、早送りされている映画みたいに、みんなの動きがカクカクしている。
「あら、ちょっと時間をいじってみましたの。どうです? せかせかしたあなたには、このくらいがちょうど良いでしょう?」
レジーナは満足そうに微笑んだ。
僕の周りの時間は、確かにめちゃくちゃになっていた。
先生の口がパクパク動いてるのに、声は遅れて聞こえてくるし、他の生徒たちは、まるでコマ送りのように動いている。
「ちょ、ちょっと待って! これ、どうなってるんだよ!?」
僕は慌てて叫んだ。
自分の声だけが、妙にハッキリと聞こえる。
レジーナは、くすくすと笑いながら、優雅に指を鳴らした。
パチン、と音がすると、僕の周りの時間が、今度はとんでもなくゆっくりになった。
みんなが、本当に、本当にゆっくり動いている。
先生が腕を上げるのに、まるで何分もかかっているみたいだ。
友達が瞬きをするのが、やけに長い。
僕だけが、普通の速度で動いている。
これは、まるで、僕が透明人間になったみたいだ。
「どうです? 時間とは、時に優雅に、時に情熱的に、ワルツを踊るものですのよ。あなたのように、いつも未来へ突進ばかりでは、この舞踏の美しさを見逃してしまいますわ。」
レジーナは、腕を広げて、まるで指揮者のように時間を操っている。
彼女の指先が動くたびに、僕の周りの時間のテンポが変わる。
早送り、スローモーション、そして突然の停止。
僕は混乱した。
こんなこと、ありえない。
でも、実際に目の前で起こっている。
周りのみんなは、僕の異変に気づいていない。
まるで僕だけが、別の時間の流れに迷い込んだみたいだ。
「さぁ、リク。わたくしが、あなたの時間を『調整』して差し上げますわ。この退屈な美術館で、少しは有意義な時間を過ごせるように。」
レジーナはそう言うと、僕の前にフワリと現れた。
そして、その瞳は、まるで僕の未来を見透かすように、深く、そして挑戦的な輝きを放っていた。
僕のドタバタな日常は、この日から始まったんだ。