第1章:未来へ急ぐ、秒速のリク
僕の名前はリク。小学六年生。
みんなからは「ロケット」とか「弾丸」なんて呼ばれる。
別に、足が速いわけじゃない。
ただ、何をするにも、未来へ急ぎすぎているだけなんだ。
朝食は秒でかき込み、通学路ではスキップを通り越し、もうほとんど小走りで、信号なんて止まっているのが馬鹿らしくて仕方ない。
だって、早く大人になりたいんだもん。
早くプロのゲームクリエイターになって、世界を変えるゲームを作りたい。
そのためには、今、この瞬間も、一秒だって無駄にはできない。
机の上には、いつも山積みのプログラミング本と、未来のアイデアを書きなぐったノート。
僕の見た目は、まぁ、普通かな。
背はクラスで真ん中くらい。
髪はいつも寝癖がついてて、それが僕の「急いでる感」を表してるんだって、友達に笑われる。
目はいつもギラギラしてて、遠くの未来を見つめてる。
だから、足元の石につまずくこともしょっちゅう。
でも、別にいい。
僕にとって、今、ここにいる時間は、ただの「通過点」。
早く、早く、未来へ行きたい。
そう思っていた、あの「呪いの」美術館に行くまでは。
その日は、学校の社会科見学。
古ぼけたレンガ造りの建物が、薄暗い曇り空の下で、まるで巨大な墓石みたいにそびえ立っていた。
みんなは「わー、すごい!」とか言ってたけど、僕にとってはただの「時間の無駄スポット」だった。
だって、過去のものなんて、未来には何の関係もないだろ?
中に入ると、ムッとした空気が鼻をついた。
埃っぽいような、古い紙のような匂い。
壁には、よくわからない絵や彫刻がズラリ。
薄暗い照明の下、みんなは先生の説明に耳を傾けているけど、僕の頭の中は、早く家に帰ってゲームの続きをしたい気持ちでいっぱいだった。
その時、僕の目に飛び込んできたのは、奥まった薄暗い展示室の、一番隅。
ひっそりと、まるでそこにいることすら許されていないかのように置かれた、小さな置き時計だった。
金色の装飾が施されていて、針が宝石みたいにキラキラしてる。
でも、なぜか、秒針だけが、ピクリとも動いていない。
「…なんだ、これ?」
僕は、思わず時計に近づいた。
その瞬間、時計の中から、甘く、しかしどこか冷たい声が聞こえたんだ。
「まぁ、せかせかと動いてばかりで、優雅さが足りませんわね」
ゾクッとした。