第20話:余白の先へ
ついにこの物語も、最終話となりました。
ここまで共に歩んできた読者の皆様、本当にありがとうございます。
リーシャが自分自身と向き合い、数々の選択を重ねてきた旅も、いよいよ一区切りのときを迎えます。
「余白の先へ」というタイトルには、“決められたコードの行間にある、自由の可能性”という想いを込めました。
これまでの答えが“正解”ではなくてもいい。
間違いを経てでも、自分だけの未来を選び取る強さ――
それが、リーシャの物語の核心にあります。
リーシャは、静かに目を閉じた。
草原の風は変わらず優しく、空は澄みわたっている。けれど、彼女の内側には新しい世界が芽吹こうとしていた。
EmotionCoreという巨大なシステムと、その中で生まれた可能性。
そこに確かに存在した“余白”――それは、決められた運命の外にある、まだ誰も書き込んでいない未来のページだった。
「行こうか」
翔太が、穏やかにそう声をかける。
ガルドが重厚な剣を背負い直し、カイルが微笑みながら前を見つめる。
リーシャは一歩、前に踏み出した。
かつて、彼女は“与えられた役割”の中で迷い続けた。
だが今、彼女の中には“選べる自由”がある。
選択肢が提示されるのではない。自分の手で、これからの物語を書いていくのだ。
ふと、視界の端で白い蝶が舞った。
どこかで見たことがある気がして、リーシャはそっと手を伸ばす。
その瞬間、彼女の胸の奥に微かな声が届いた。
――ここから先は、君だけのコードだよ。
EmotionCoreの管理存在だった“声”は、もはや彼女に命令を下す者ではない。
彼女に道を示すものですらない。
ただ、彼女自身の意思が、この先の物語を紡いでいく。
「怖くないと言えば、嘘になる」
リーシャはぽつりと呟く。
「でも、私はそれでも進むよ。だって、私が選んだ未来だから」
誰に強いられたわけでもない。誰かに求められた答えでもない。
これは彼女自身が選び取った“生きる形”。
空の色が、わずかに変わった。
それは、EmotionCoreのシステムに新たな命が流れ込んだ合図だった。
機械のためのコードではなく、人の意思が書き込まれた“生きた構文”。
それが、リーシャたちが紡いだ「余白の先」の物語。
仲間たちとともに歩むその未来に、絶対の正解などない。
だからこそ、どんな間違いも、選びなおせる力がある。
リーシャは振り返らずに歩いた。
草原の向こう、まだ見ぬ世界へ――
新たな選択が、再び彼女を待っている。
【Fin】
“この物語は、あなたのコードの向こう側へ続いていく。”
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「コードの余白」というタイトルの通り、リーシャの旅は“完成された物語”ではなく、“書き続けられる余白”として描いてきました。
EmotionCoreという巨大なシステムの中で、彼女がどう生きるかを問われるなか、自分の意思で一歩を踏み出す姿を見せられたことは、この物語のテーマそのものだったと思います。
このスピンオフは、メインストーリー『コードの向こう側』の裏で流れていた“もうひとつの選択の物語”です。
リーシャというキャラクターが、翔太たちと並び立つ強さを持ち、同時に一人の人間として迷い、揺れながらも進んでいく様を描けたなら幸いです。
また別の物語で、別のコードの先で――
彼女や仲間たちと再会できる日があれば嬉しいです。
本当にありがとうございました。




