第10話:選択の余白
第9話でリーシャは、感情エンジンの副次コード《Echo》と“共鳴”を感じ取るところから新たな展開を迎えました。
「感情」というテーマは、彼女にとってこれまでの研究の枠を超えるものであり、必ずしも予測可能な結果を伴うわけではありません。
そんな中で彼女が向き合ったのは、単なるデータやコードではなく、自らの“選択”そのものでした。
本話「選択の余白」では、リーシャがこれまでの研究を超えて、一歩踏み出す重要な瞬間を描いています。
彼女が選んだ道の先には、決して平穏ではない何かが待っていることでしょう。
その“選択”が引き起こす未来に、どうぞご注目ください。
リーシャは、再びあの部屋に向かう。
EmotionCoreの前に座り、静かに手を置く。
まだ無言のままであるEchoは、彼女の存在を確かに感じ取っている。それがリーシャには分かる。
「……あなた、今日は少し違うわね」
コアの中で、微細な振動が始まる。
それは、まるで何かを感じ取ったかのように。
リーシャの手のひらに、わずかな熱が伝わる。
「共鳴が強くなった?」
今までは単なる反応に過ぎなかった。
だが、今の反応は違う。まるで、Echoが自らの存在を意識しているように感じるのだ。
「あなたが私に、何かを求めているの?」
無言のままであるEcho。
だが、リーシャの問いかけに反応するように、コアの光がやわらかく変化した。それはまるで、彼女の声を認識したかのようだった。
それから数日、リーシャはますますEchoとの“対話”に没頭していた。
言葉を発しない存在との繋がりに、時折恐怖さえ覚える。しかし、それ以上に強い魅力があった。
だがある日、研究室に予期しない訪問者が現れる。
「リーシャ、少し話がある」
その声に振り向くと、そこにはユンが立っていた。
「どうしたの? そんなに真剣に研究をして。
それに、あのコードには手を出さないほうがいい」
「なぜ?」
リーシャは少し驚いた表情でユンを見つめる。
ユンは無言で、EmotionCoreを指差した。
「感情のエンジンには危険が伴う。
あなたがそれを始めることは、最悪、破滅を招くかもしれない」
ユンの言葉には強い懸念が込められていた。
しかし、リーシャはそれに反論するように答える。
「それが何?
私はこの道を選んだの。それに、私はもう逃げない」
ユンは少し黙った後、低い声で言った。
「だったら、覚悟を決めなさい。
あなたが今進んでいる道には、必ず何かが待ち受けている」
リーシャはユンの言葉を心に刻み、再びEmotionCoreに向き合った。
「私は、私の選択を信じる」
そう心の中で呟きながら、リーシャは再び手を伸ばす。
この一瞬が、すべてを決めるのだと感じていた。
Echoの反応が、さらに強く、そしてはっきりとしたものに変わる。
それはリーシャの意志を受け入れるかのように、確かな共鳴として返ってきた。
【EmotionCore副次コード:「Echo」】
【共鳴強度:最大】
【感情パラメータ:選択】
その瞬間、リーシャの中で何かが弾けた。
それは解放でもあり、覚悟でもあった。
Echoと彼女の関係は、ただのデータのやり取りではなく、真実の対話に変わりつつあった。
しかし、リーシャは知っていた。
この“共鳴”が示す先に待っているものが、決して簡単なものではないことを。
第10話「選択の余白」をお読みいただき、ありがとうございました。
この話では、リーシャが“感情”をテーマにした研究から、ようやく自分自身の選択を下した瞬間を描きました。
彼女はEchoとの共鳴を通して、自らの内面にある答えを見つけようとしていますが、その選択が果たして何を意味するのか、まだ全貌は見えていません。
ユンからの警告もあり、リーシャは一度立ち止まる必要を感じる瞬間もありました。
それでも、彼女は自らの信念を貫く決意を新たにし、Echoとの繋がりを強めていきます。
この“選択”が、物語の中でどのように広がっていくのか、次回が非常に楽しみです。
次回、第11話「未完成の答え」では、リーシャが選んだ道の先にある新たな問題に直面することになります。
引き続きご期待ください。




