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第4話 男の娘?

「がちゃ、とかいうのを使うにゃ!」

 アデルがわたしの周りをぐるぐると飛び回り、スマホを操作するように促す。

 まあ、わたしもこれからどうしたらいいのか解らないから、それに従うことにした。


 ゲームアプリのガチャのページを確認すると、『SSRキャラ排出率アップ中!』というお知らせの下に、キラキラした美麗キャラたちが並んでいる。

 ごつごつした甲冑に身を包んだ謎の騎士、十代前半の初々しい雰囲気の魔女、羊のような角の生えた肉感的な美女、旅芸人みたいな恰好をしたチャラ系美男子、緑色の長い髪と薄緑色のドレスを着た精霊の美少女、他にもたくさんのキャラクターがいるけど、やっぱり女子率が高い。

 そこで、見覚えのないキャラもいるな、と気づく。そういえば、少し前から期間限定ガチャが始まってた。新しいキャラが追加されたらしい。

 だけど……。


「これを、どう使えと」

 わたしがスマホ画面から顔を上げてアデルに訊くと、謎猫はにゃはは、と笑う。

「これから君は色々な危険に巻き込まれるはずにゃ。だから、強い護衛が必要にゃん」

「護衛ですかにゃん」

「レディ・メディオス様からのさーびすにゃ! 君に付き添い、この世界のあらゆる敵と戦い、君を絶対に裏切らない、そんな存在を与えてくれるのにゃ!」

「そーですか」

「でもやっぱり、一緒に行動するにゃら美形だったり美女だったり、見目麗しい存在がいいにゃん? もちろん、ボクより可愛らしさは劣るかもしれにゃいけど、その辺りは我慢してにゃ!」


 ――いや、君みたいな騒々しい猫は全く可愛くないけどね!?


 と、わたしは目を細めてアデルを見つめたけれど、謎猫は胸を張って無駄にポーズをキメている。ムカつく。


 わたしはしばらく、アデルとスマホを交互に見つめていたけれど、諦めてガチャページをじっと見つめた。

 何だか実感はわいていないけれど、確かに同行者は必要だと思う。わたし一人でこの世界を歩き回るなんて無理だ。正直に言うと怖いし寂しい。

 ガチャを引くボタンのところが、ちかちかと明滅していて、早く引け、と言っているみたいだ。

 でもこれ、押したらランダムでこのキャラの誰かが出てきてくれるの?

 さすがにハデハデしいキャラだと、一緒にいて目立ちすぎる。地味目のキャラが出てきてくれたらいいな。SSSキャラだと派手な面子ばかりだけど、ノーマルカードとかレア度が低いものだったら、村娘とか一般人みたいなのが出てくるはずだ。

 とはいえ、人間のキャラだと獣人に襲われる可能性がある?

 じゃあ、どんなキャラが出てくれたら一番いいの?


 いや、ガチャなんてアレだアレ、神様の言う通りって感じで、わたしが望むキャラが出てくるとは限らない。何も考えずにタップすればいい。


 でも、でも、でも!


 わたしは声を大にして言いたい!

 どうせなら強いキャラが欲しい! それこそ、この世界で一番強い、みたいなチートキャラ! ゲームにおける主人公、チート能力を持ってて敵をバッタバッタと倒していく、そんなキャラがいい!


 あとついでに美人か美少女がいい!

 美形キャラはわたしにとっては荷が重い! 小心者のわたしはきっと色々遠慮してまともに話せない! わたし、学校ですらまともに男子と喋ったことないしね!? 泣いてない! 泣いてなんかないんだから!


 よし、チート美女! 世界最強! そんなキャラよ、おいでませ異世界!


 と、そこで。


 バチン!


 という、ちょっと強めの静電気みたいな痛みと衝撃がわたしの左手に伝わった。スマホを持っている手。しかも、ちょうど右手の指先がガチャのボタンをタップして、心の準備ができてないままに画面が光る。

 それは見覚えのあるガチャの演出。レア度の低いキャラが出てくる場合は、こんな派手な光り方はしない。虹色の光が瞬くそれは、明らかに――レア度が高い、というかSSSキャラが出てくる演出で。


「え、ちょっと待つにゃ」

 慌てたようなアデルの声を聞きながら、わたしは目の前に降り立った美女を見つめていた。

 風に揺れる長い黒髪、ナイスバディな身体つきを強調するかのような赤いドレスはチャイナドレスのようにスリットが入り、切れ長の瞳と赤い唇、白い肌に映えるネックレス、腰に下げられた細身の件、そして羊のような角。

 見た目は二十歳前後のその彼女は――。


 新キャラだ!

 名前は覚えてないけど凄い美女だ! ガチャページにキャラ紹介があったはず!


 目の前の彼女は最初、目を閉じていた。でも、ゆっくりとその瞳が開かれると、そこには金色に輝く光が見えた。

 そして彼女は僅かに顔を顰めた後、両手を自分の視線の先で握ったり開いたり、その次に自分のドレスを見下ろして――叫んだのだ。


「何だこりゃぁ。俺の身体はどうなってるんだ!」

「ほわっつ」

 わたしが思わずそう声を漏らすと、目の前の彼女はそこで初めてわたしの存在に気づいたらしい。乱暴に長い髪の毛を掻き上げながら、軽く舌打ちした。

「何だお前! 誰だお前!」

「ええと……」

 わたしは妙に男らしい口調と仕草の美女に困惑しつつ、何とか引きつった笑みを口元に貼り付けると小さく言った。

「わたしは勅使河原すみれ、すーちゃんと呼んでください」

「知るか!」

「酷い! 訊いてきたのはそっちなのに!」

 両手を自分の口元に当てながら、か弱い被害者を装ってよろけて見せた。しかし、彼女はそんなわたしを無視して辺りを見回している。

「何だここは。どうして俺はこんなところにいるんだ」

「ええと、俺って……もしかして」


 これが噂の男の娘!?

 一昔前に流行った気がする男の娘!

 と、わたしは彼女(?)のナイスバディを上から下まで観察するけれど、やっぱりどこからどう見ても女性にしかありえない丸みを帯びているわけで。

「ちょっとアデルさんとやら、これはどういう状況?」

 と、わたしが空中でふらふらと回っていた謎生物を見上げたところで、アデルもわたしと同じように困惑しているらしいことに気づかされる。


「……おかしいにゃ……。レディ・メディオス様はこんにゃこと、言ってなかったにゃん。何で人格を持ってるにゃ?」

「は?」

 ふらふらぐるぐる、宙を彷徨う謎猫はぶつぶつと呟き続けている。

「護衛役には人格がにゃくて、無条件で付き従うって聞いてたはず……にゃけど、もしかして聞き間違ったのかにゃ。とりあえず、命令に従ってくれればいいにゃ……」

「アデルさーん? もしもーし?」

「そうにゃ! 命令してみればいいにゃ!」

 アデルはそこでわたしの胸元に飛び込んできて、小さな前足でたしたし、と叩いてきた。「その娘に命令するにゃ! 気を付け、とか!」

「何ソレ!?」

 わたしは困惑しつつも、アデルの勢いに押されて素直に従う。

 黒髪美女に向かって右手の人差し指を突き付けて、「気を付け!」と言うと、それまでうろうろと歩き回りながら森の中を窺っていた彼女がぴたりと動きをとめた。それは正に、わたしの命令を聞いたと解る動きだった。

 それを見たアデルが、嬉しそうに翼をはためかせて宙に浮かび上がる。


「……何だお前」

 彼女はその美麗な顔立ちを不快そうに歪め、改めてわたしのことを見つめる。それはわたしを観察しているのがよく解るものだ。

「お前は何モンだ? この俺に命令して、俺の動きを操るってことは……魔術師、いや、お前、魔力持ってんのか?」

「魔力?」

「っていうか、俺に何が起きてるんだ。おい、この謎の命令を解けや」

「……口が悪いなあ。見かけによらず」

 わたしは思わず唇を尖らせて不満を示してから、「はい、自由にして」と言葉を続けた。すると、美女が軽く首を回しながら数歩後ずさり、わたしから距離を取った。そんな野良猫みたいに警戒しなくても。

「ええと、わたしもよく解らなくて」

 と、頭を掻きながらわたしが頭上のアデルの方に目をやると――。


「レディ・メディオス様! お忙しいのは解ってるんですにゃ! でも、この状況がどうにゃっているのか教えて欲しいんですにゃ!」

 そう空に向かって叫んでいるところだった。


 わたしも黒髪美女も、ただ茫然とその様子を見ていることしかできない。

 そして、何らかの返事がアデルから得られるかとちょっと待っていたのだけれど、唐突に謎生物はキラキラした光を辺りに飛び散らせながら、この場から消えた。そう、消えたのだ。何も解らないわたしたちを残して。

 そして訪れるのは自然の音以外には何も聞こえない静寂。


「……ええと」

 わたしは鬱蒼とした森を見回し、鳥の鳴き声とか風に揺れる木の葉の音を聞きながら、必死に言葉を探す。

「……ああ?」

 美女も言葉を探しているみたいだ。

「えと、改めましてわたしは勅使河原すみれっていいます。女です」

「……俺はリアム。姓は捨てた。魔人族の王であり、男だ」


 うん、どこから質問したらいいんですかね?

 わたしは思わず、リアムと名乗った美女を目の前に、小さく唸ることしかできなかった。


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