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第2話 森の中で一人と一匹

「間に合わないって何!? カナエちゃん、やっぱり霊能者!? 何か見えてるの!?」

 わたしはぎょっとしてそう訊き返したけれど、カナエちゃんはこちらを見上げることもないまま、どこか遠くを――何かを見ていた。そして、どこか夢うつつといった声音で小さく続ける。

「……今日はこのまま何もしないで帰って。ゴミ拾いしている時間なんてないから」

「え、だって」

 と、そこまで言いかけたところでわたしはあれ? と動きをとめた。さっきまで傍にいたはずのカナエちゃんの姿が跡形もなく消えていたのだ。きょろきょろと境内の中を見回して、やっぱりどこにも人影がないことを確認してから、やっぱりカナエちゃんは只者じゃなかったと感嘆の息を吐いた。

 霊能力者じゃなくて超能力者か?


 ……まあ、次に会った時に確認しよう。


 それから、わたしは慌ててお参りを済ませた。五円玉を賽銭箱に入れてから二礼二拍手一礼。

 いつもだったら、朝早くからばたばたしているわたしという存在が神社の神様に申し訳なくて、せめてのお詫びに境内の中を見回ってゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱へ、なんてことをやっていたけれど。

 カナエちゃんにゴミ拾いはいいって言われたし、よし、今日はこのまま帰ろう。


 わたしが足早に境内を出て石段を降りていくと、入り口付近の鳥居の近くに人影がいくつかあるのを見かけた。

 猫がいっぱいいる神社だからなのか、この神社に足を運ぶほとんどの人たちがスマホを片手に構えているけれど、わたしがこの時見かけたのは、動画でも撮影しているのか小型の――アクションカメラっていうんだっけ、そんな機材を持った人。

 さすがに、ジャージ姿のぽっちゃり系――デブとは言いたくないお年頃だ――がその人のカメラに写ってしまうのは申し訳なかった。できるだけ静かに行き違いできれば――と考えながら歩いていく途中で。


 唐突な耳鳴りと同時に、眩暈を覚える。

 ――貧血だ。

 わたしは慌てて、足を止めた。

 ぐらぐらする頭を手のひらで押えつつ、わたしは唇を噛んだ。

 わたしはたまにこうして貧血や頭痛に悩まされていて、お母さんは「ダイエットのし過ぎじゃないの?」と言う。確かに食事制限はしているけれど、実際には痩せることもないし――何だろうな、これ。


 なんて目を閉じて考えていると、それほど離れていない場所から声が聞こえた。


「……これは……無駄だろ」


 わたしは慌てて目を開けて、声のする方向に視線を投げる。でもそこは、鬱蒼と茂る木々に覆われた山の斜面。

 ――あれ、そっちに道ってあったっけ?

 わたしは首を傾げながら声の主を探す。すると、結構離れた場所に奇妙な格好をした男性たちを見つけた。

 そこでわたしがぽかんと口を開けてしまったのは、彼らの姿が海外の映画で見るような格好をしていたからだ。

 西洋の甲冑というのだろうか、頭をすっぽりかくす兜と、顔の辺りは何かの動物みたいなお面がつけられていて、ちょっとカッコいい。首は鎖帷子みたいなもので覆われ、身体は金属の鎧、手には革の手袋。だから肌の色はほとんど見えない。

 遠く離れていても、金属の擦れる音が響くのが解る。

 しかも、彼らの腰には剣みたいなものもあって――そこまで見ればわたしだって何が起きているのか解る。


 ――アイチューブの撮影かな。


 わたしは数か月前に、街中で忍者の格好をした人たちが動画撮影しているのを見たから余計に頭が働いた。

 そういや、近くに特撮の聖地みたいなところがあったっけ。だから、この辺りは田舎と呼ばれる地域だけど、こういう撮影は珍しいものじゃない。

 今度は映画か何かだろうか、森の中で撮影って大変だろうけど……なるほど、他人に迷惑をかけないように人の少ない朝にやってるのか。

 ってことは、撮影の邪魔をしないようにさっさとこの場を離れなきゃ――と視線を鳥居の方へ向けた。


 それなのに。


 ――あれ?


 何だか突然に、わたしは不安を覚えた。

 さっき見た光景と違う。

 目の前にあるのは、ごつごつした獣道と森。あるはずの鳥居はどこにもなく、猫の動画を撮っていたらしい人影も消えている。

 夜が明けた空――雲もほとんどない青い色が上に広がっているはずだったのに、どんよりとした曇り空が見える。


 眩暈。

 何だか気分が悪くて、わたしはよたよたと進んだ先で力なくしゃがみ込んだ。ちょうど、背の高い雑草に覆われた場所。

 ここはわたしが歩いていた境内から続く道とは違う、知らない場所だ。意味が解らない。


「もうこの辺りで充分だろ」

 遠くから響く男性の声は、どこか陰鬱な感じがした。何だか、夢を見ているような感じがして、その声すら現実味のないものに思える。

 彼らの姿は雑草の向こう側にあってわたしからは見えない。同じ理由で、彼らもわたしの姿が見えないだろう。ざっざっという複数の足音だけが妙にはっきりと響く。

 彼らは少しだけ苛立ったような、疲れたような声で会話している。

「まあ、いくら何でもこの辺りまで見回れば問題ないだろうな」

「どうせ、もっと王都に近い場所で見つかるだろ。こんな辺境に聖女様とやらがくるはずがねえよ」

「じゃあ、そろそろ引き返すか。魔物が出たら面倒だ」


 ――魔物?


 これは素人が作成している動画。もしくはちゃんとした監督のいる映画とか、テレビドラマの撮影よね?

 聖女様とか言った?

 うん、やっぱり映画だ。きっとそうだ。


「また最果てが近づいたらしいしな、とっとと聖女様とやらが瘴気を祓ってくれないと、こっちもおちおち夜も寝てられん」

「大丈夫だろ。最終的には聖女様がいなくても神殿の連中が何とかすんだろうし」

「神殿ねえ……」


 そんな会話が遠ざかっていくのをわたしは確認してから、そろそろと立ち上がる。

 やっぱり見覚えのない場所だ。森の中というか、登山をしていたら道に迷った、みたいな状況になってる?

 え? どうして? 何があった?


 そこでわたしは我に返り、さっきの人たちに声をかけた方がよかったのかもしれないと焦りが生まれた。助けてもらった方がよかった? 帰り道が解らなくなりましたって言ったらよかった?

 でも、でも。

 あの人たち、武器みたいなの持ってたよ?

 撮影じゃなくて……ただ単純に、変な人たちだったら?


 ――どうしよう。


 わたしは森の中で一人、立ち尽くしていた。


 我に返ったのはその十分後くらいだ。

 このままぼんやりしていても仕方ない。わたしはスマホを入れているショルダーポシェットを開き、お母さんに電話することにした。

 それなのに、圏外だった。

「ちょっと! アンテナ! 全然立ってない!」

 わたしはスマホを持ってうろうろと歩き回る。でも、位置を変えても圏外なのは変わることなく、仕方ないからメッセージアプリを開いてお母さんに連絡。


『道に迷った』

『こっちから電話が通じないから、お母さんから連絡ちょうだい』

『メールでもいいから、わたしのメッセージに気づいたら教えて』


 立て続けに送るけれど、それらに既読がつくことはなく――。


 どうしよう、どうしよう。

 このまま闇雲に歩き回ったら、もっとドツボにハマることだってありえるよね? 雪山で遭難するよりはマシかもしれないけど……いや、どっちもどっちかも。

 あああああ。

 わたしはそこでもう一度、その場にしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。

 その時だ、わたしの左手首にブブブ、という振動が伝わってきたのは。


『新着メッセージあり』

 スマートウォッチの小さな画面に、そんな文字が浮かんでいる。こんな時にゲームのお知らせか、とため息をついたものの、いつもの癖でスマホアプリを開いた。

 お知らせマークがついている異世界フィット・トラベラーズをタップすると、見慣れたホーム画面が出てくる。自分が作成したアバター、ユーザーがそれぞれ模様替えできる家、アイテムボックス。

 ゲームの舞台となる国、メイスフィールドの地図。クエストのページ、ユーザーバトルのページ、そしてお知らせのページが派手に点滅している。


 ゲームのお知らせが今届いたということは、このアプリはネットにつながってるんだ。

 なんてことを考えながら点滅している部分をタップすると、唐突に目の前に何かが爆発したかのような光がこぼれ出た。

 びっくりしてスマホを遠ざけ、目を閉じた直後。


「にゃにゃっとこんにちは! ボクは君の案内役、アデル! 困ったことがあったら何でも訊いてにゃ!」

「……ほわっつ?」

 薄目を開いてそれを見ると、見覚えのある謎生物が目の前に浮かんでいた。


 このダイエットアプリゲームの中でよく見たことのある、真っ白な猫みたいな謎な生き物。額に赤い宝石、ゴージャスな造作の首輪。背中には白い翼。尻尾は二股に別れていて、西洋風の猫又といったら解りやすいだろうか。

 この謎生物はゲームの説明をしてくれるキャラクターなんだけれど、それが実際にわたしの目の前にいて、定型文というか決まり台詞を投げてきている。

 ということは。


「解った! これは夢だ!」

 わたしはびしり、とその謎生物の目の前に人差し指を突き付けた。

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