フリーデン裏方の日々②
然しいつまでも続くトリーチェの話しに等々苛立ちが募ったプトゥは声を上げた。
「聞き流して手を動かしなさい、我慢が足りないわよ。」
…………もう!お二人共聞いてますか!?」
トリーチェが途中で投げ出した布をプトゥが縫い合わせ、小さな布の山が5つあった内2つ片付けた所でプトゥの限界がやってきたが、プロスティは手を休める事なくそれを言葉で制すと漸く語り続けていたトリーチェの言葉が止んだ。
「……トリーチェ話したい事は終わったのか?」
「そんなまだまだ足りないです!!」
「そうか……分かった少し待ってろ。シーカー!!!リウス!!!すぐに来い!!」
プトゥは蒼色の瞳をトリーチェに向け目を細め訊ねるとまだまだ語り足りないと濃緑の瞳を輝かせ力強い声で言い切られ、これ以上は話しを聞き流し続けての作業に限界を感じこの部屋に来る前に一緒に作業していた隣にいる2人を大声で呼び始めた。
「プトゥ何!?居なくなってこっち忙しいんだけど!!」
「本当だよ!!研磨する石後何箱残ってると思ってるんだよ!!」
「お前等2人こいつ連れ出してどっか行ってろ!!」
「「…………。」」
「こいつじゃないです!トリーチェです!!」
「「!!??」」
大きなゴーグルをかけた少年2人が扉から顔を出しプトゥに文句を付けるも無理やり細めた蒼色の瞳を向けて怒鳴られ、限界を迎えている時だと察し直ぐに2人は黙ったが、約1名何やら気付いていない様子の血走った濃緑の瞳をしたトリーチェに驚き視線を向ける。
「怒鳴っているうちに早くしろよ…。」
「……行くよ!!トリーチェ。」
「君プトゥに何したの?取り敢えず月が変わるまでは別の所で作業するよ〜。」
ガタッ!ガタッ!ガタッッターン
「え!!?何でですか私は何も悪いこ…………
椅子に座ったままのトリーチェの両脇を抱えたシーカーとリウスは優しい声音とは裏腹に無理やり持ち上げると椅子を後ろに倒し引き摺るようにトリーチェを部屋から連れ出して行く。
「……漸く静かになったな。」
「ふふ、やる事が増えたけどね。」
プロスティとプトゥの2人だけになった作業用の家は静寂に包まれたが、未だに布が積まれた小さな山が3つとその奥に天井迄届きそうな大きな布の山が3つ聳え、隣には研磨が必要な石が入った箱が高く積まれている事をプトゥは思い出し、視線を向けることなく手を動かしているプロスティの言葉に項垂れる。
「………悪ぃ…あっち早く仕上げてくる。」
(これ縫い終わったら研磨を急がないとな……。)
プロスティの態度に本気で怒りが込められていることを長年の付き合いで察し、もう間もなく縫い終わる布に刺す針の速度を速めプロスティに謝った。
「……よろしくね。」
落ち込んだ事を感じ取ったのかプロスティは布から視線を外すと深海で1度だけ発見したことがあるグリフィクリスタルパールの様な赤い透明な水晶に真珠を嵌め込んだ瞳をこちらに向けて微笑んだ。
「お疲れ様です。」
「磨き終わった石を引き取りに来ました。」
「お疲れ〜隣にある箱全部終わっているから持ってけ。」
「はい、ありがとうございます!」
あれから6日経ち真黒な髪に白のシャツを着た好青年風の2人が家の中に入って来るとプトゥとプロスティに其々頭を下げた。
プトゥは縫い合わせていた布から手を離し頭を上げて入って来た2人に視線を向けると隣の部屋を指さし立ちあがる。
「お前等も不眠茶で良いか?」
「ああ、先に出来た分乗せて来るな。」
そう言って2人が隣の部屋に入ったが直ぐに部屋から出て来てお茶の準備を始めているプトゥに信じられないような顔を向けてきた。
「プトゥお前……人か?。」
「プトゥさん……あの箱の量マジすか?」
「あのな……お前達と違って嘘つかねぇよ。」
プロスティに微笑まれやる気を出したプトゥは2日間昼夜徹して18箱あった大きさも種類も異なる石を其々の特性を活かして磨き上げて縫製を手伝い始めていた。
「ライ、ローシ大丈夫。私も3日前に確認したから。」
布から手を離し顔を上げてプロスティが2人にそう告げると益々驚きの表情を浮かべて見てくる2人に気持ちはとても良く分かると心の中で同意する。
(心配になって本当に終わったのか寝ている間に見に行ったのよね……。)
縫製の作業に戻って来るのが早すぎて仕上がりが心配になったプロスティは、プトゥが仮眠を取っている間に研磨が終わったと言っていた石が入った大きな木箱を全て開けて中を確認すると、中の石が確認しやすいように透明な箱に分けて納められ、どれもこれも元々貴重な品だが完璧な磨きによって数段価値を上げる仕上げが施されているのを目にして驚き全て確認を終わると箱の蓋を閉じた。
(元々土台がしっかりしていなければと最初に手を掛ける私とダークド、キニゴスの所には精鋭が集められているけれど…やはりダークドの弟子なだけあってプトゥは群を抜いているのよね…。)
プロスティはプトゥに視線を向けて見遣るとその視線に気が付いたプトゥはプロスティに緩みきった笑顔を向けてくる。
あまりにもその顔が面白く微笑みを返すと直ぐに手元に視線を戻しまた素早く針を動かしていく。
「あれ?そういえばあの若くて元気な3人はどうしたんですか?」
「「…………。」」
プロスティに微笑まれ上機嫌で数種類ある中から今日の気分の不眠茶を選んでいるとライの発言により空気が少し冷え込んだ気がして何も言葉が出なかった。