お嬢様とのお買い物は遠慮したい。4リアン目線
お兄さんの名前入力間違い訂正しました。
「聞いて!」
戻り次第話しをしてお付の侍女は誰もが知る恐怖話しとして認識されていた。
「知っていたはずなのに!!」
そしてある日、私達を含まずに別の3人の侍女をお目付け役に付けてあの店に向かうと全員が倒れた。
止める者が居なくなったお嬢様が蛇整という真っ黒な太い弦とあの時見た掻蛛を満面の笑みで購入して帰ってきたのを見て全員が固まった。
「よくこんな事を……」
疲れているだろうからと庭に呼ばれ蛇整を身体に巻かれると突然弦が勝手に伸び出し凄い勢いで近場の木に吊るされ、巻かれていない側の先端が顔に近づき“ミシッミシッ”という音と共に目の前で2つに裂け緑色の内部が見えると水の様な樹液を垂れ流し全身丁度良い強さで揉んできた。色々と目を潰れば1番使い勝手が良い代物だったが初めて体験した時は皆直ぐに意識を失っていた。
「まだまともだと思っていたのに!!」
一応倒れたのが過労かと心配になった店主がお嬢様に奇跡的にまだまともな植物を勧めたから良かったが、あの店の品揃えを頭に浮かべた私達3人は、必ず私かスルジャかマーデカの誰か1人を含まない限りは街に出ないように同僚にお願いし、倒れた侍女からはお願いされた。
「貴女だって倒れた1人でしょ!!」
学院に入られるようになり、色々と知り圧を掛けて店主に勧められた品も止めれば表のまともな珍花を買うようになったが、どうしても店主とお茶を飲み私達には混沌とした世界にしか見えない珍奇植物を見ることはやめられないらしい…そして嫌々ながらも行くことを止めないのは…
「【どんな植物も可愛いと言いながら嬉々として眺めている姿はお可愛らしいのよね……。】」
「リアン?何をしている……の?」
ふと植物を見るお嬢様の顔を思い浮かべると声が聞こえ突然本人が目の前に現れ驚き目を見張った。
「??!!………。」
(何故お嬢様が此処に!!??)
「待って…!その手の花……、秘香枯よね?」
私の手にある花を見た瞬間瞳を輝かせ近付いてくるお嬢様が想像した姿と重なり、嫌な予感に凛とした態度で接する。
「少し“ワーオ”の様子が気に掛かり来てみましたら、禁忌植物を見つけまして只今内密に駆除をしております。」
あの時初老の紳士から買った、何か話しかけ“はい終わり”と声を掛ければ“ワーオ!”と返してくれる屋敷では密かに人気のある大きな厚みの管楽器に似た花弁を持つ、本当に少し様子が可怪しくなった花の名を出し、休日に屋敷の敷地内にいる事への不信感を拭わせつつこの花から意識を遠ざけようとした。
「確かに最近“ワワワワーオ!”と何故か、ワが増えていたけれど調べてみたら受粉したみたいでいつかもう一株何処かに増えるみたいなのよ!」
「………。」
嬉しそうに語るお嬢様に何故番が居なければ増えないからと言われて渋々購入した一体しか居ない花が受粉したのかを問い質したいが、あれが知らないうちに何処かにもう一体増える事実に脱力を感じた。
(2体で重なったら煩そうね……。)
人気はあるがワーオの迷惑な所は“はい終わり”と言わずに一月ほど放置をしてしまうと“ハナシガナガイノヨーー”との音声と共に“はい終わり”と伝え忘れた話しが、花から大音量で流れ出し話した本人が“はい終わり”と伝えるまで止まることなく何度も繰り返す事だった。
(何でも無い話なら良いけれど…そうでなければ辛いわよね…。早めにこの話しを屋敷全体に回さなければ。)
何度か遭遇したブチギレワーオは皆で知らない振りをしながら本人が気がつくまで放置を決め込むのがいつしか暗黙となっているが大体その日の内にはワーオに戻っている。
「それよりもリアン?!それは絶滅した筈の貴重な花よ?…駆除せずに其の儘にしておく方が良いのではなくて?」
「……お嬢様、この花が何故絶滅したかご存じですよね?」
秘香枯にまた意識が戻ったお嬢様は想像通りの言葉を口にし始めた。植物に対して変態とも言える情報量が入っている頭にこの花の危険性も入っているだろうが珍奇植物すら愛するお嬢様は、知っていれば怖くないを合言葉にしている節がある。
「……それは…、でも悪用を考えた人がいたから問題になっただけでただ愛でる分には問題はないはずよ。」
「……その悪行が酷すぎたからどの国からも禁忌とされているのですよ?」
各諸国で見つけたら報告を求められ、話しを聞かれるが、その時に少しでも怪しい所があると判断されれば容赦なく消される花を愛でようとする、危険すぎる思考にお嬢様らしいと思いつつも目眩を感じた。
「……でも、態と花弁を千切ったり焼いたり…駆除薬を撒いたりしなければ問題は無いじゃない。花は仕方なく自衛をしているだけなのよ!!」
「………では、お嬢様は何かあった時に責任を取ることがお出来になるのですか……?」
「責任……。」
植物以外の現実はそこそこ見ることが出来る筈なのに何故…と残念な気持になりつつ何時もなら考えつくだろう重い現実を突きつけた。
「はい。はっきり申し上げますがこのお屋敷の話しではなく、ビッダウ国が無くなるかも知れない責任をお取りになれますか?」
「!!??それは、その……。」
「この花はその規模で責任を問われかねない代物です!もうお嬢様は子供ではございません!!本当に許され無い植物を望んでも叶わないことはお分かりですよね?」
あの後龍涎弦には続きがある。
お嬢様は若木はあの声量では変な噂が立ちかねないとの話しに納得して諦めたが、龍涎弦は人を飲み込む大きさの物は諦めたが、小振りのものなら大丈夫だろうと何度も家長様と家長ご夫人様とエレミタ様に交渉しに向かい、折れた家長様が虫を食べる位のサイズならとあの店で購入したが、手に入ればあの大きさを諦めきれなかったのだろう、お嬢様がせっせと情報を集め世話を続け、小鳥を飲み込む大きさまでにしたのを知ったエレミタ様によって龍涎弦はこの屋敷から亡くなった。
「それは……そう…よね……分かったわ。」
その時のお嬢様の嘆き様は凄まじいものだったが、エレミタ様は容赦なく「何か起こる前に手を打たなくてはならない大きさだった。許された大きさと違うものにしたお前が悪い。」と笑顔で追い打ちをかけた。
その教訓があるのだろうその後は家長様が許した範囲での育成に留めるようになり、まだこの庭での不審な噂は立つことが無かった。
「では、この花の事はお忘れになり別の方角から散策をお楽しみ下さい。」
「………。」
肩を落とし元来た道を戻るお嬢様にあの小さい頃の姿が重なった。
「あの様子では種が落ちていないか明日辺り探すのでしょうね……。」
また花を抜く作業を始め、戻る時のお嬢様の目が死んでいなかった事に、花を隠すのは難しいが種ならばとお嬢様が考えそうな事を想像して眉を下げて苦笑してしまう。
「そんな事をしても見つからないのですけれどね…。」
どの書物にも秘香枯の種についての記載はあるがこの花は1株あれば根を分け合い増殖していく、種など有って無いような物だ。
それでも種が描かれるのは………。
「ここ一帯の花全て抜き終えて早く種にしなくてわ…。」
まだまだ生えている秘香枯を眺め、焼け野原の中で一本だけ咲いていた最後の秘香枯を抜いた瞬間種になったあの不思議な現象を思い出す。