お嬢様とのお買い物は遠慮したい。3リアン目線
(((お嬢様……もう限界です。)))
其処から先も身体の中で滞っている血液を吸う掻蛛なる花の中央部分の窪みに指を入れ血を吸わせようとしたり、ハールクーペなる葉植物の前に一房髪を前に出し揺らしたかと思えば高速で葉が動き出し鋭利な刃物にでもなったかのようなその植物に髪を切らせようとしたり、他にも様々あったが説明を受けて3人で植物から遠ざけ間一髪の所で試そうとするお嬢様の行動を全て未然に防いでいた。
まだまだ元気よく燥ぎながら走り回るお嬢様とは対照的にこちら3人は既に色々と限界を迎えていた時にそれと出会った。
「!?これは……顔が気になるわね。」
「………お嬢様次のそれはなんですか?」
楽しそうにしていたお嬢様が、一本のねじれている太くもなく細くもない真っ直ぐな高い木の前で真剣な表情になり2つに分かれている先端を食い入るように眺め始めた。
「これは龍涎弦と言って何処からでも良いのだけれど色が変わっているこの弦の部分を弾けば…」
そう言うと“ピィィィィーン”と弦特有の音が響き渡りる。
「ああぁぁぁぁぁっっ!!!!」
この植物の管理者だろうか絶対に関わり合いになってはいけなさそうな恰幅のいい男性が目を見開き遠くから大きな声を上げると必死の形相でこちらに向かって走り出して来た。
「「「え?」」」
私達は3人共その男の必死に仕留めに向かって来る形相に目を向けて固まり、お嬢様が説明する内容に反応が遅れた。
「上を向いた2つに分かれた枝が下を向いて粘度のある樹液がほら垂れて流れてくるでしょ?それで食べるのよ。」
「お嬢ちゃぁぁぁぁん!!!!」
「なにをですかぁぁぁ!!!!!????」
「お嬢様ぁぁぁあ!!??」
下を向いた先端の両脇には大きな透明な球体があり樹液の膜なのだろうが瞳が潤んだような愛らしい動物にもみえる植物が、上空から大きな口を開け涎を撒き散らしながら勢いよく滑空して本能のままお嬢様を捕食しようとする姿に私とマーデカと店主は叫びだした。
「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ、はぁぁ。」
“ドォォォン!!!!”
叫ばなかったスルジャは何とか反射だけで身体を動かし間一髪の所で力強くお嬢様を引き寄せその腕に抱えていたが大きな音と共に目の前に落ちてきた龍涎弦の恐怖とお嬢様が無事だった安心感からか、その手がお嬢様から力なく外れると、どうやら腰を抜かしてしまったらしくその場に力なく座り込んでしまった。
「ほら見て!ああして枝を折り曲げる様にして弦が弾かれた場所に垂直にしか落ちて来ないから知っていれば危険もないし、樹液は土の状態を維持するために必要な栄養素が含まれているからお庭か、玄関口に植えたら防犯にも良いし、それに枝が凄いわ!!まるで動物の顔みたい仕上がっていてとても可愛いと思わない?」
「お゛もい゛ませ゛ん!!!!」
危険に晒された当事者である筈のお嬢様は何事も無かったかのようにその木に輝いた瞳を向け頬を喜色に染めると、弾むような声で説明をしだし、話しの内容から購入の検討を考え始めている事に既に早鐘の様に脈打つ心臓に更なる負担を加えられ私は半ば大きな泣き声のようにも拒否した。
「…防犯なら私達今まで以上に気をつけます!!執事達にも伝えますから……購入は絶対に絶対に、絶対に!お辞めください!!」
「……良かった、良かった……うぅっうっ。」
マーデカも真っ青な顔をして、お嬢様に力強く縋り付き涙を溜めた瞳をお嬢様の危ない瞳から視線を外すことなく真剣に止めに入り、スルジャに至っては只々お嬢様が無事だった事に地面に座ったまま涙していた。
「ああ…本当良かったそれにしてもお嬢ちゃん……
恰幅のいいこの植物の持ち主である男性は安心したような顔でお嬢様に近付いてくると目線を合わせ凄み始めた。
知ってるなら良いけど実演で人間を使うお店は無いからもう2度と見つけても触っちゃ駄目だよ!」
(((…そういう問題じゃないだろう!!)))
斜め上の注意の仕方に元はと言えばと元凶を造った男に殺意が湧いてきたが、お嬢様は少し悩むような仕草を見せ始めるとその男性に不思議そうに視線を合わせた。
「そうね…気をつけるわ!」
「じゃあ…」
「でも、この植物を此処まで大きく育てる、もしくはこのサイズで手に入れられる正規のお店は知らないのだけれどね……。」
「お嬢ちゃん……。
お嬢様の納得した言葉にこのまま終わるかと思ったが何故か、珍奇植物の取扱店の情報を知っていた余り外出されないお嬢様が放ったいらない詳細に男の表情が変わりお嬢様を別の世界に連れていきそうな瞳を向けてきた。
(お嬢様…あの店主の顔をよく見て下さいませ。私達武術は習っておりません!!!!!)
最後の力を振り絞り何とかお嬢様を守ろうと抱き抱えるように引き寄せ男性から距離を取ろうと考えた時お嬢様の視線に再び合わせ強面の顔を笑顔に変えるのを見て今日で終わったと悟ったが口からでたのは以外な言葉だった。
中々の情報通だね!!おじちゃんまだ店を持ってなくてね、この丹精込めて育てた龍涎弦を売って店をと思っていたんだよ!!」
「まあ!!そうなの?!貴方とてもいい仕事をしているからきっとお店を出したら人気店になるわね!大きさも凄いけれど下りてきたあの枝、若木の頃から丹精込めて手入れをしていなければあんな可愛い顔にはならないものね!!」
「そうでしょ!そうでしょ!お嬢ちゃんこそ見る目があるね!!龍涎弦なんかよりも珍しい、おじちゃんの取っておきを見せて上げちゃう!こっちにおいで!!」
「本当に!?それはとても楽しみだわ!!」
其処から今現在も付き合いがある店主とお嬢様は意気投合し、もしかしたらあのアーヒャッヒャッヒャッの受付の初老の男性の店で時間をかけて過ごせばよかったかも知れないと思える程の様々な品を観ることになった。
(…本当に知り合ってはいけない2人が出会ってしまった場面だったわ……。)
結局いつの間にか頭が戻った龍涎弦と戻って話しを聞きに行ったアーヒャッヒャッヒャッの若木を購入しようとするお嬢様を必死に止めに入り、桃源花と言う珍しい花の種とワーオという花を購入して帰宅したがその後龍涎弦と若木を家長様に強請りに行き、お兄様の部屋に連れて行かれ真っ青な顔で部屋から出てくると2度と若木とあの龍涎弦が欲しいとは言わなくなった。