お嬢様とのお買い物は遠慮したい。2リアン目線
その店の外観は一面硝子張りだが継ぎ目や補強の木材は白が基調の屋敷の様な造りで硝子に映る緑豊かな様々な植物達は青々と茂り、よく手入れがされているのが分かった。中に入れば今度は大小様々な見たことのない珍しい鮮やかな花が至る所にあり、花によってだろうか、手動で開閉し差し込む陽の光を調節出来るように天井に薄い布製のカバーが架かり名家の温室の様な造りになっていた。
行けば必ず店員に呼ばれ奥から顔馴染みの店主が知り合いでなければ絶対に付いていく事は確実に無い笑顔でやって来ると、お嬢様に手招きして別室で用意されたお茶を飲みながら植物の話しで2人は盛り上がり、一息つくと今度は何処に続いているかわからない地下室を通り、扉を開くと目前には店主渾身の訳の分からない植物が立ち並ぶ混沌とした世界が広がる。
造りは同様の温室だが、其処に置かれているのは9割は確実に止めに入らなければならない代物ばかりだった……。
全て仕入れ経路は合法ではあり、お嬢様にはお世話になっているからと愛好家価格で大変お得に提供してくれるが、例え購入するとしてもまだギリギリ多分他の将家の人が思いがけず目にしても許容範囲内の花や植物を店主に毎回圧を掛けてお嬢様に勧めさせていた。
(私達3人が居なければ死人の出る森が完成するでしょうね……。)
「初めてあの店主に会った時に手に入れようとしていた龍涎弦はその最たるものだったわね……。」
ーーー
「リアン、スルジャ、マーデカ見て見て!!こちらにもとても珍しい植物が並んでいるわ!!」
お嬢様が何時もならば人混みを嫌がり決して自ら行くとは言わない筈の街に行くと言い出し、お見合いの茶会が何度も続き不満が溜まって居たのだろうかと家長様に確認を取りに行き、何でも好きな物を選ばせてやれとの了承の言葉にスルジャとマーデカと私が街に付き添い出かける事になった。
「お嬢様お待ち下さい!!」
「………お嬢様!楽しいのは分かりましたから走らないで下さい!」
「こんなに楽しそうなお嬢様が見れるのは良いけれど…本当にもう帰りたい…!」
私が先にお嬢様を追うとその後ろに、クリームイエローのショートボブの髪型のスルジャ、紺青のセミロングをお団子状に1つに纏めたマーデカが続いた。
「凄い!!本で見たことがある植物があちらにもまだ沢山並んでいるわ!!」
お嬢様は珍しく燥ぎながら人の往来が少ない通りを走り左右にある様々な植物を見てはうっとりとした表情を見せていたが……こちらの3人には何一つとしてどの植物もまともな物に映る事はなくずっとげんなりとして見ていた。
ーーー
『はぁ〜。どうしても今日限定で開かれる市場に行きたかったのよ。』
馬車に乗り込んだ時点で顔を緩ませながら説明されたがどうやらお見合いの茶会で不満が溜まっていた訳ではなく、今日限定で開催される珍奇植物の市にどうしても行きたかっただけらしい。
(((お嬢様……不安しかありませんが。)))
お嬢様の説明に3人共同じ事を考えたがそれは見事に的中し、入って早々に受付を終えて来場記念にと通された少し大きめな葉が茂る木の前に案内されるとお嬢様は瞳を輝かせ「こんな立派なアーヒャッヒャッヒャッがあるなんて……。」と意味の分からない言葉を発し瞳を輝かせ興奮し始めた。
初老の紳士的な雰囲気の受付の男性に目の前にある葉を眺めるように言われ数分眺め続けると、突然見つめていた葉が自分の顔そっくりに変化し「アーヒャッヒャッヒャッ!!!」と自分の顔で高らかに3回嗤い始め枯れ落ちた………。
『『『………。』』』
私達3人は呆然としてその場で声も出せずに固まっていたが、お嬢様だけは受付の初老の紳士的な雰囲気の男性に輝かせた瞳を向けると満面の笑顔を向け恐ろしい話しを始めた出した。
『このアーヒャッヒャッヒャッ高音の声音に引っ掛かりも無く、最後の散り方も潔くて随分と良い品だと思うのだけれど、売り物かしら?』
(((…え!?)))
その言葉に受付の初老の男性は一瞬目を見開いたが、何やら感じる物があったようでお嬢様の視線に合わせると同じ様に瞳を輝かせた。
『ほぅ…お嬢様は中々見る目がございますね。』
『そうかしら?貴方みたいに立派な植物育成師に言われると嬉しいわ!!』
(((植物育成師って何ですか?お嬢様?)))
未だ上手く働かない思考でそれでも何とか不安になる言葉に疑問だけが湧いた。
『その様に煽てられてもこちらは売り物ではありませんのでお売りは出来ませんが、宜しければ期待が持てそうなアーヒャッヒャッヒャッの新芽が御座います、そちらをご覧になりますか?』
『まぁ!!ぜ…』
その時漸くこの場に長く居ては駄目だと本能で察知し私達は素早く動き全てを足早に周って帰ろうと声に出すこと無く意見が一致した。
『お嬢様!時間がございません!1度見て回ってからにした方が宜しいかと思います!!』
『そうですよ!この……アーヒャッヒャッヒャッ…で見る時間が終わってしまったらどうするのですか?!』
『え?あ?ちょっとどうしたの3人共に?まだ時間は……』
『『『ありません!!』』』
お嬢様を引き摺るようにして3人で木と受付の初老の男性から遠ざかったが、お嬢様は私達の必死の形相が見えないのか『一周したら戻って来るわ〜!』と楽し気に後ろに声を掛けていた。






