夜
私は、魔物の重たい頭に押しつぶされそうになっていた。
私を襲おうとした魔物は、だらりと肢体を放り、口から泡を吹いている。
獣くさい悪臭から早く解放されたい。
でもまずは、助かったことを喜ばなくてはいけないだろう。
魔物が気を失ってから、半刻ほどたっただろうか。
ザッザッザッザッザッ
足音が近づいてくる。
そのとき、ものすごい突風が地面の土や葉を巻き上げ、思わず目を閉じた。
「ミルラ!」
そこに、凄まじい形相の風の少年がいた。
いつも重たげにまつ毛を垂れていた目は、カッと見開いて、眉がグシャグシャに憤怒していた。
「ぶっ殺してきた!」
彼は、すぐに私に被さっていた魔物を突き飛ばし、ナイフで首元をひと突きした。
そしてすぐ私に駆け寄って、体に食い込んだツタをナイフで切った。
「ミルラ!無事か?怪我してないか?!」
彼の手は怒りで震えている。
「だ…大丈夫よ……。何もされてないわ」
私は、初めて実感が沸き上がってきて、たまらなくなった。
私たちは膝立ちで抱き合い、震えながら一緒に泣いた。
「ぶっ殺してきた!仕事がもっと早く片付けられたら、ミルラにこんな思いさせずに済んだのに!」
私は、彼の言う「ぶっ殺してきた」が何のことか、全く心当たりがなかった。
ただ、星がキラキラ瞬く空が、血みどろの光景とは無縁のように平和だった。