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風の村  作者: kint
3/10

真昼

私たちは、開けた場所で、ランチをとることにした。


ツヤツヤとうるめくイチゴは、袋いっぱいにとれた。


それを持ってきたパンに載せて、甘い果汁を楽しむ。


高い木で囲まれたこの小さな広場には、円い青空のもと、私と彼しかいない。

いい香りがして心地いい。


「風が、ハーブの香りを運んで来るんだ。風上にたくさん自生しているからね」


彼は、私と一緒に森に入るたび、新しい知識を教えてくれる。


「ぼくと一緒なら、この森はキッチンと庭だ」



風遣いは、定住しない。

行動範囲が広すぎるからだ。


農民の私たちは、決まった土地に生まれ、そこをほぼ出ることなく、生涯を終える。



彼らは自由だ。

私は、彼のそんなところにも豊かな魅力を感じる。



「…もう!またズボンにイチゴの汁をすりつけて!」


今度は私が彼を叱った。

照れ隠しだったのに、彼が私をじっと見つめながらペロッと指をなめるから、余計にドキドキしてしまった。


私のいとこの姉は、彼のそんなところを馬鹿にしていた。

教養のない、貧しい風遣い。


『いい?こんな閉鎖的な村で生きる必要なんてないのよ。私のように必死に勉強して資格を取り、街へ出なさい。女性だって対等に扱われて、働けば欲しいものが全て手に入る。憧れのダイヤだって自分で買えるのよ』


糸紡ぎを練習していた私に、彼女は諭すように言う。里帰りのたびに聞かされるので、ついぼーっと聞き流してしまう。


『ちょっと!もう。……フン、私はもうすぐ結婚するからね。同じ弁護士の、地位も収入も高い男性よ。ルベルも、お互い切磋琢磨しあって高め合える関係を見つけなさい』


まさか、おじいちゃまの許婚を本気にしているわけじゃないわよね?と、毎回尋ねられる。


私は、肯定とも否定ともとられないように、曖昧にうなづいてその場を流す。


細やかに装飾されて、袖が硬そうなワンピース。

美人ではないが、きっちりと化粧され髪は整えられ、体型も細く管理されている。


彼女は、誰もが羨む姿だろう。

最近では、村の女性だけでなく、男性も彼女の生き方を推している。


立派だと。

いやむしろ、これが次世代の女性のスタンダードだと。


私は、ラストノートが不摂生で濁ったような甘く不快な香りから、早く逃れたかった。


彼といる森で、風が運んでくるハーブの香りに包まれていたかった。



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