表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の村  作者: kint
2/10

正午前

10時を少し過ぎたくらいに、彼は戻ってきた。


白いコットンのシャツに、茶色いリネンのズボンとサスペンダー。


ふわふわの髪はふくらんで、人形のように小さい顔を際立たせていた。


どう考えても、遺伝子が優れている。

スラリとした手足、均整のとれた体。


グレーがかった緑の瞳は、きれいな二重まぶたと、密に生えそろった淡いまつ毛にふちどられている。


「ルベル、イチゴつみにいこ?」


彼は、特に名前をもたない。

そういう一族に生まれたのだ。


私は、彼を呼びたいように呼ぶ。

村のみんなも、風遣いとか、風坊とか、好きに呼んでいた。


年齢は、私よりひとつ年下の15歳だ。

まだあどけない顔は、思春期にもかかわらず、さらりとして清らかだ。



「久しぶりに風、乗っていく?」


私は、ギョッとした。

彼はたまに私を風乗りに誘う。

ただ、去年までは難なく乗れたが、今はどうだろう。


「ん〜、大丈夫かな。私、最近太っちゃって…」


「全然、太ってないよ。赤ちゃん産むには、もっと太らないと」


ほっそりした人を見て、私はただただ美しいと思うのだけれど、彼は人を美醜ではなくもっと動物的に見ているな、と思うことがある。

そんなところも、大好きだ。


「あの木の枝から飛ぶよ?そこまで登れる?」




「きゃ〜!!」


久々の風乗りは、爽快この上なかった。


ボボボボボ、と風が耳を乱暴に通り過ぎ、髪を全て後ろへ押し流している。



彼は私の手首と腰を持ち、気流に乗れるように体を沿わせてきた。


この瞬間、私は恋をしたのだった。

あれは12歳の頃か。



真っ青な空は、大きく白い雲を泳がせている。

その中を突っ切るのもたまらなく楽しい。



あっという間に森へついた。


彼は丈夫な木を探し、枝にふわりと着地した。



そろそろと地面へ降りると、もう目の先にはイチゴの赤が見えた。



「だめだよ!ルベル、森の入り口のイチゴはダメだって教えたでしょ?」



恥ずかしい。イチゴを見て身を乗り出していたのか。私は気まずくなり小さく固まった。



「ね、この森は人からイチゴを守るために、入り口に毒イチゴを生やすって、忘れないでね。死にはしないけど、赤ちゃんができなくなるよ。男は、おしっこが出なくなって苦しむ」



彼は、軽く柔らかな口調で、私に忠告する。

「ルベルは、ぼくの赤ちゃんを産むんだから」



あぁ、好き。

私と彼は、許婚だ。



この特別な絆で、他の誰にもふたりに立ち入らせたくない。


婚約をとりもってくれたおじいちゃん、本当にありがとう。壊れ物の貴重品のように、この絆を守っていくから。


彼は、私と手を繋いで、ガサガサと音を立てて森へと入っていった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ