表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の村  作者: kint
10/10

明け方

「君は、ミルラとして生まれた。没薬だよ。死を司る能力者だ」



……え?モツヤク?



私は、ただの平凡な村民だ。

これまでも、これからも


「没薬は、埋葬の時に用いられてきた、死を象徴する香り。没薬のまたの名をミルラ。君は、自分が危機を感じた時に、相手の命を奪うことができる」


嘘だ。



でも……


やめてやめて、と、私の頭は叫ぶ。

でも、これまでに私に怖い思いをさせた相手はみな、不思議と突然死していた。


「ミルラの語源は、ミイラなんだ。だから草木が影響を受けると一瞬で枯れてしまう。その腕輪は、君の力で枯れ草となったんだ」



私は、理解を受け入れられずにいた。



「いいよ。驚いたよね。ゆっくり話したいんだけど、君に説明するには、もう少し話さなければならない。俺についても」


風の少年は、優しく私の髪を撫でた。



「君は、呪われているんだ」


どこか心当たりがあった。


「君のお母さんの血筋だよ」



ゾクッとした。父は出稼ぎで不在がちだが、農業でずっと私を育ててくれた、大切な家族だ。


でも母は……


「君が2歳の頃にいなくなったよね。でも悪く思わないでほしい。これは君のお母さんの一族が背負った呪いなんだ。その呪いは、どの子に受け継がれるかは分からない。産んでみなければ分からないんだ」


私が……その……?



「お母さんは、君を捨てたつもりはない。でも、君をミルラとして産んでしまった後悔に耐えきれず、家を出ていったんだ」


「その……私の前は、誰が呪いを背負ってたの?」


「君のいとこの母親さ」



私の叔母……体が弱く家に引きこもりがちで、外の人間と関わりを持たずに暮らしていると聞いた。



じゃあ、いとこの姉は、その呪いを知っていたことになる。もし私が叔母の呪いを引き継いだことが分かっていたなら……


「君のいとこのお姉さん、君を街へ連れ出そうと必死だっただろ?あれは、親族のいる村からミルラを離したかったんだ。そして他人ばかりの都会で、自分が面倒見ようってわけだったようだよ。その方が、いつか君がミルラを自覚した時も、より自由に生きられるって考えて」


そして彼は、覚悟をするように、座り直した。


「俺、君と結婚すれば、ミルラの名を無くせると思った。風の一族になれば、名前を失うから。ただの俺と君になれるんだ」


彼は、私に優しい眼差しを向けた。


そして正面に向き直ると、あの冷たい月のような瞳に変わった。


「だけど、俺の親父が猛反対していた。今日だって、ここからかなり離れた地に配達に行かされてたんだ。そこで風が運んだ腕輪の匂いで君の危機を知ったのに、行かせてくれなかった。だから、ぶん殴って逃げてきたんだ。本当に殺しちゃいないさ」




……そうだったのか。




私は、今まで生きてきた世界が音を立てて裏返えるような感覚に襲われた。



私、あんなに呑気に……彼に恋して……軽口叩いたりもして……



「ごめんなさい」

私は、目に涙をためて震えた。


「あなたは、ずっと重荷……その秘密を抱えながら戦って、私と付き合ってくれていたのね。私ったら浮かれてばかりいて」


そっと、唇が塞がれた。



「違うんだ。それも。一緒にいたのは、俺が君をそこまで好きになってしまったからだ」



初めてのキスは、明け方の月のように清らかだった。



「もっと、してもいい?」


私は、彼に優しく押し倒された。

肩が柔らかな草に触れ、私の頭を包み込む彼の手から体温を感じた。


彼は、私の顔をぐっと引き寄せ、何度もキスを繰り返した。


だんだん身体がとろけていくようだった。

さっきまでのどうしようもない絶望と不安が、よりその感覚を高まらせていき、たまらなくなった。


「ミルラ。俺、ミルラになら殺されてもいいよ」


唇から彼が離れて、熱っぽい瞳が目の前にある。

私は、彼の後頭部に手を伸ばして、自分からキスをした。


彼に、スイッチが入ったのが分かった。



あ"ぁ"〜!あ"あ"ん!!!

ア"ッ!ア"ッ!ア"ッ!ア"ッ!






……それは、ロバのいななきだった。


嘘でしょ……

村にロバがいなかったので、そんな風に鳴くなんて知らなかった……


私たちは、ロバに向けていた顔を見合わせて、大爆笑した。




もう、2人とも失うものはなかった。




風になろう。

たとえそれで呪いが解けなくても、私は彼に愛されている限り、どんなことでもできる気がしていた。


叔母さんのように、一生誰とも関わらなくても、彼がいるならそれでいい。


たとえこの先彼の心が離れても、今日の思い出があれば生きていける気がする。



「そう、君は強いんだよ、ミルラ」


風の少年は笑った。


「全然、夫に付き従うタイプじゃない」


少し不服そうな私に、愛情たっぷりの笑い声をかける。


「だから生きていけるんだ。これからもずっと、ふたりで」


彼は、遠くを見やった。



「俺も風の一族を追放されるかもしれない。そうしたら、暮らしをイチから作り上げよう。君の力は、コントロールさえできれば、素晴らしい能力にもなりえるんだ」


ミルラの効能、それは鎮静。そして、活性。


葬送の香りでもある一方で、聖人の誕生にも捧げられた、始まりの香り。


「私、風の村を作るわ。世界中を飛び回る風遣いが、羽を休められる宿場を。ねえ、いいでしょ?」


風の少年は、心底嬉しそうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル通り、風が草の薫りを届けてくれるような素敵なお話しでしたが……、全部奴にもってかれました。 余韻に浸るはずが笑い転げてしまいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ