可愛い
彼は時々可愛い。
いつもは皮肉めいた言葉を発したり、嫌味なほどからかってきたり、私の気持ちが汲み取れずトンチンカンなことを言ってイライラさせられたりするのだけど、時々見せる可愛さで、なぜか全て許せてしまう。
「惚れた弱みだよね」
友達にはそんなことを言われる。
「そんなことない!」
「いや、あんた、自覚ないかもだけどさ、バレバレだよ? 彼氏の話する時、文句言ってても嬉しそうじゃん」
どうやら私は感情が表に出やすいようで、彼への気持ちがダダ漏れなのだそうだ。
それは時々彼にも言われる。
「お前、俺のこと好きすぎだなー」
やけに嬉しそうにそう言われると、少しだけ反抗したくなるのは悪い癖だ。
お互いの仕事が忙しく、休みも重ならないため、最近は通話ばかりだが、通話中の彼は可愛い。
眠たそうな声を出しているので、寝るように促すのだが、駄々をこねるのだ。
「うん、もうちょっと……もうちょっと話してたい……」
眠気に襲われ、普段の声より鼻にかかったフニャッとした声でそんなことを言われると、たまらなく可愛く思えてしまう。
「寝なよ」
「分かってる……でももうちょっと……」
朝にはこんな会話すら覚えていない彼なのだが、こういう時はやけに素直で、普段は言わないようなこともサラッと言ってくれる。
「ねぇ? 私のこと、好き?」
「うん、好きだよ……だからね、もう少し話してたい……」
あぁ、なんて可愛いんだろう。
こんな彼の一面が愛おしくてたまらないのだ。
「俺、そんなこと言ってない! また都合のいいように勝手に話作ってるだろ?」
「そんなことするわけないでしょ」
翌日必ず交わされる会話。本当に覚えていないのかは定かではないが、私の記憶の中にはきちんと刻まれていて、あの甘えた彼が積み重なって行くたびに、彼への想いは強くなる。
だから、いつまでもそのままで、私にだけその姿を見せて、その声を聞かせて欲しい。