近所の幼女ちゃんは自称『魔王(私)の側近』らしいです
数ある作品のうちの一つであるこの作品を見つけていただきありがとうございますm(_ _)m
楽しんで貰えたら何よりです
突然だけどわたしは子供が苦手だ。
のんびりしていたいのに振り回されたりだとか、うまくいかないとすぐ泣くところだとか、声が大きすぎるところだとか。
人によって苦手な部分はたくさんあると思うし、上げていけばきりがないと思う。
……そんな沢山ある中でわたしは、あの高いテンションが一番苦手だった。
よくわからない世界観というか、常識から外れた突飛な想像力から生み出される、彼らが創る彼らだけの新世界。
それに急に巻き込まれるのが苦手だった。
「まおうさまですー!」
「……え、わたし?」
……こんなふうに。
「えっと、その、わたしに言ってる?」
「そうです!まおうさまなのです!」
さて、状況を簡単に整理するとしましょう。
お年玉を貰ったので買い物に行こうと家を出て歩いていたところ、見知らぬ(記憶にはない)子供……幼稚園児くらいの女の子が、わたしに近づいてきて謎のことを言いはじめた……と。
……んー、整理してもよくわからないね。
「やっとあえました!うれしいですっ!」
「えっと。あの、取り敢えず顔を見せてくれる?」
「はぁい!」
ぎゅーっと足にくっついて来る女の子。
わぁ……お手々ぷにぷにしてるなぁ……じゃなくてね。
確認のために一度離れて貰って女の子の顔を確認する。
女の子の表情はすごく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
しかし、悲しいかな。
わたしとこの子は初対面だった。
生き別れの姉妹の感動的な再会でもなければ、従姉妹ですらない初対面の関係なんですよ。
……というかまず私の名前『魔王』じゃないし。
それどころか『まおう』の文字一つも入っていないんですけど。
てか、子供達の間で『魔王』の物語流行ってるのかな?
よく巻き込まれるんだけども。
「ええと……」
困惑しつつこの女の子の保護者らしき人がいないか探してみる。
しかし、誰かを探しているような人はこの周辺には居ないようだった。
……どうしようか。
迷子かもしれないけど、勝手に動いたらかえって迷子になるかもしれないし。
あー、もー、すっごい困った。
どのくらい困ったかというとどうすれば良いのか困るくらい困った。
……困っているんですよ?
だからあの、微笑ましいものを見るような表情で横を通っていくのやめてもらえますか。
わたし達は赤の他人なんです。
ほらっ、髪色も目の色も違うでしょ!?
この子銀髪蒼眼。わたし金髪碧眼。
そう思っても、助けてくれる人はやってこなかった。
……え?コンタクトと染めてる可能性があるからだって?
そのとおりだなぁ、わたしは地毛ですけども。
「えーっと、キミの名前は?」
「まおうさまのそっきんのシルフィですっ!」
「……っ。あー、えっと」
現実を受け入れることにして、現状打破のための解決策を模索することにし、そのために現状把握を行なおうと女の子に質問をしてみる。
しかし、返ってきたのは斜め120度くらいの答えだった。
その角度はブラウン管テレビなら治るかもしれないけど、今回の問題はなんとかならないなぁ。
……どう考えても本名じゃなさそうだし。
もう終わりだぁおしまいだぁ。
「あっ、すみません。いまのなまえですか?」
そんなふうに弱気になっていると、女の子がそんなことを言い始めた。
察しがいいね。
キミ、本当に幼女?それか超能力者?
まぁ、十中八九幼女だろうけど。
「えっ、あっ、そうそう。お願いできるかな?」
「こっちでは、ねねというなまえです!」
お願いすると名前を教えてくれる。
この子の親御さん、知らない人に名乗ってはいけないって教えなかったのかな。
……いや、この子の中ではわたしは知り合いなのか。
なら仕方ないのか?
「そっか。わたしは『まおう』じゃなくて琴乃っていうの」
「ことのさま!」
わたしの名前を教えると、舌足らずな感じで復唱してくれる。
……お殿様に聞こえたのは気のせいか。
いや、言いにくいせいだろう、きっと。
「『様』は無くていいよ。琴乃って呼んで」
「いいえ!まおうさまはまおうさまなのです!」
「……そっかぁ」
論点すり替えは無効化されてしまった。
残念無念又来年。
「取り敢えず、ねねちゃんのお家かお父さんお母さんの場所わかるかな?」
「わかります!」
ねねちゃんは元気よく返事をすると、わたしの手を掴んで進み始める。
わぁ……やわやわだぁ……。
繋がれた手は小さくてぷにぷにしていて、何処か懐かしい感覚がした。
「まおうさまにまたあえてうれしいです」
「……そうなの?」
「はいっ!これからもいっしょです!」
「……ありがとね」
「えへへっ」
ニコッと笑うねねちゃん。
年相応といった笑顔はとても可愛らしいものだった。
……話の内容が摩訶不思議なことを除けばだけどね。
「一つ質問いい?」
「だいじょうぶです!」
「その、魔王様の名前って覚えてる?」
「もちろんです!そっきんですから!」
歩きながらねねちゃんの話を聞く。
色々話したいのか、ずーっとずーっとずーっと話し続けていた。
その途中で気になった質問をしてみる。
すると小さな胸を張って誇らしげにするねねちゃん。
微笑ましいと思うと共に、わたしは何故か嫌な予感を感じていた。
「まおうさまのなまえは、『レイナ』さまです!」
「……へぇ……そうなんだ」
「まおうさまはすごいのです!」
そして、その嫌な予感は当たってしまう。
ねねちゃんははっきりとその名を告げる。
魔王『レイナ』……と。
わたしはあくまで平静を保ちつつねねちゃんの話に耳を傾けるふりをする。
しかし、ねねちゃんの話は右から入っては左から出ていってしまっていた。
「あっ!寧々!」
「おかあさん!」
そんなときだった。
女の人がわたし達の方に駆け寄ってくる。
それに気づいたねねちゃんが走り出し、手を繋いでいたわたしは引っ張られるようにしてついていく。
あの、手を離してもらって大丈夫なんですけど!?
という心の中の叫びは聞き遂げられなかった。
「寧々!良かった……」
「おかあさん。ただいまっ!」
母親が手を広げると、そこに突進するようにねねちゃんは飛び込んでいく。
ようやく離してくれた……じゃないや、ようやく合流できた、だ。
「すみません。私が目を離したばかりに……ご迷惑をおかけしてしまい」
「いえ、無事に親御さんの元に戻れたようで良かったです」
「なんとお礼を言ったら……」
「いえ、大丈夫ですよ」
ねねちゃんを抱きかかえた母親が私に対して頭を下げる。
……良かった。
漫画とか小説のような迷子になる子供が悪いと怒るタイプの親じゃ無くて。
……まぁ、娘さんの言動については……うん。
別に言う必要もないか。
もう会うこともないと思う……という本音はさておき、予定があるのでという建前のゴリ押しでお礼をしたいという旨を断り、その場を避ることにした。
「じゃあね、ねねちゃん」
「まおうさま、またですー!」
「……魔王様?」
……あ、それはなんかすみません。
わたしは心の中で謝りながら、手を振るねねちゃんと不思議そうに首を傾げるねねちゃんの母親を後に、来た道を戻っていった。
「……はぁあ、全く。なんでこんなことになるのかな?」
わたしは、暫く歩いた後、近くにあった公園に寄り、ベンチに座ってため息をついた。
理由は言うまでもなく、先程の奇妙な出逢いについて。
「……どうしようか」
わたしは、ぼんやりとしながら考える。
……だって、ねねちゃんが言っていた物語は全て事実だっだから。
わたし、水上琴乃には所謂『前世の記憶』がある。
それも、ねねちゃんが言っていたように魔王として生きて、勇者に敗北して死んだその瞬間までの全てがだ。
「……これで、3人目。流石に偶然じゃない……よねぇ?」
小学校4年生のとある日に全て思い出した、何処か現実味があって何処か夢物語のような記憶。
そんな前世の記憶にまつわる出会いはこれで3度目。
某戦士長も兵士長に対して叫ぶよ、これは。
それに加えて、初めての身内以外の記憶持ち(と思われる子)との出会い。
そのおかげで、あの記憶は本物で彼らも同じような記憶を持っているのだと確信めいたものを感じていた。
いやまあ、まだ偶然だった線は捨てないけど。
「はぁ。昔、あんたらに叛逆しようとしたとはいえ、もう十分平和を望んでるよ?だからさ、ボクの望みを聞いてくれても良くない?……ねぇ、神々の皆さん方?」
わたしは何も無いはずのしかし、確かにそこに誰かがいると感じられる空に向けて、ぽつりと独り言を零す。
しかし、そこからの返事があるはずもなく冷たい空気を運ぶ風が通り過ぎるだけだった。
「はぁ、帰るか」
考えることを辞め、わたしは家への岐路を辿る。
どうせ、考えたところでもう会うこともないだろうしね。
「きょうこそおまえをたおすっ!かくごしろぉ、まおう!」
「させませんっ!まおうさまはわたしがまもりますっ!」
「ねえねはわたしのなのーっ!」
……なんて、思っていた頃がありました。
「……どうしてこうなっちゃったのかなぁ。」
そんなわたしの呟きは、幼女達の喧騒によってかき消されていったのだった。