エピローグ ジーンさん、大好き♡
――後日談。
オルウィン伯爵家。
アメリアとジーンは仲良く手を繋ぎ、屋敷の北側に広がる森を散歩していた。これは執務の合間に行われる、ふたりの日課になっている。
前オルウィン伯爵が遺していった各所への債務はまだ残っているが、ふたりで協力して対処しているので、順調に片づいてはきている。
バリー公爵という心強い味方も付き、過去の契約を盾に理不尽な要求をしてくる相手方の貴族を諫めてくれるので、ものすごく助かっている。
……ただ、『次はいつ、うちの領に遊びに来るんだ?』とちょくちょく手紙が来るので、そろそろ『今度はバリー公爵がいらしてください』と返そうかと考えているところだ。
ふ……と視界が陰り、ドラゴンが上空を旋回してから急降下して来た。
「おーい、アメリア~、かき氷をくれよ~」
初対面の時はビル十階建てくらいの巨体だったが、最近は民家二階建てくらいのサイズが気に入っているようだ。
「ハロー、ドラゴンさん、いいですよ~☆」
アメリアはにこにこ笑って、魔法のステッキを取り出した。
「――出でよ、巨大ビニールプール! その中にたっぷりかき氷! イチゴミルク果肉入り~!」
ファサフワトローン♪
メルヘンなドデカかき氷が出現。
「わほ、やったぜ~☆」
ドラゴンがお座りして、かき氷をご機嫌で食べ始めた。ドデカスプーンがないので、直にかぶりついている。イチゴミルクのところを大口で食べて、『むふ~ん♡』と頬っぺたを押さえているさまは、小さな子供みたい。
そこへ蛙と狼がやって来た。
「娘~、わしたちにもドラゴンと同じものをくれ♡」
「ワフ♡」
「――お~い、ウサウサウサ音楽会を開くぞ、ありがたいだろお前たちこら~」
ウサウサウサも二十五匹、ゾロゾロと集まって来た。なぜか全員蝶ネクタイをしている。音楽会だから、正装なのだろうか。
ジーンはアメリアを後ろからハグして、楽しげに精霊たちを眺めている。
今日のアメリアは紺と白のギンガムチェック柄のドレスで、華やかな花冠をつけており、とても可愛らしい。
「――アメリア」
耳もとで囁かれ、アメリアが振り返ると。
――チュ♡
ジーンが頬にキスをしてきた。穏やかに笑んでいる彼に甘く触れられると、絵本から抜け出してきた王子様にしか見えないから、アメリアはどうしていいか分からなくなる。
可憐に頬を染めるアメリアを眺めたウサウサウサが、
「ヒューヒューこら~」
「キスはちゃんと口にしろこら~」
「アポーパイ~」
オルウィン伯爵邸は今日もにぎやか。
アメリアはジーンの腕の中でターンして、彼に正面から向き合った。
ふたりは見つめ合い。
「――ジーンさん、大好き♡」
アメリアは愛しの彼に抱き着いて、キュートな笑みを浮かべた。
(終)




