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6.銀縁眼鏡の謎推理

「では、間違っていたら随時訂正していただくとして……

 私は昼前、普段閉まっている執務室の窓が、なぜか開いているのではないかと気になって、戻って確認しました。

 なぜ私がそう思ったのか……」


 ノアルスイユはくいいっと眼鏡を押し上げた。


「マリーさん。

 貴女は私達に話しかけようと、執務室に戻った。

 でも間が悪く、私達が秘書官室に入った後で、私達はそのまま前室を経由して外に出てしまった。

 貴女は皆、どこへ行ったのかと戸惑い、一度、執務室と前室をつなぐドアを少し開いて、様子を見たのではないですか?」


「は、はい」


「するとちょうど、私がコケてつんのめっていた。

 びっくりした貴女は、ドアを閉じてしまった」


「そ、そうです!」


「やはり! そのまま私は貴女に気づかず外に出た……が、私はその時、ローテーブルの下から貴女のドレスの紺色をちらりと目にしていたんです」


「ノアルスイユは廊下に出ようとして転んだんだろう?

 執務室側は反対側じゃないか」


 アルフォンスはぱちくりした。


「いや、ソファに引っかかって転んだので、まっすぐドアに向かって転んだのではないんです。

 人間の静視野は200度、動視野は230度あると言われています。

 その時、意識には上りませんでしたが、視野の端でドレスの色を私はとらえていた」


 そこでノアルスイユは言葉を切った。


 アルフォンス達はノアルスイユが実演したつんのめりを思い出した。


 秘書官室から廊下を目指すと、前室を斜めに横切ることになる。

 その途中でソファの角にひっかかったのだから、斜めに転ぶかたちになったはず。

 確かにぎりぎり、執務室につながるドアの端が目に入る角度だったのかもしれない。


「しかし、眼鏡がカバーできるのは120度程度。

 私の裸眼の視力はかなり悪いので、ドレスの紺色の印象しか残りませんでした」


「「「なる……ほど??」」」


 ジェルナンド、ブレザック、クレアウィルは、さりげなく首やら目玉を左右に動かしている。

 眼鏡と裸眼の視野の違いを確かめているようだ。


「起き上がった時には、執務室のドアはもう閉じていた。

 私はその場では異常を感じず、廊下に出たところで、紺色の印象がふと意識に上ってきた。

 この部屋だけでなく、王宮の執務エリアのカーテンはほとんど紺色です。

 そして普段、カーテンは窓の両脇に紐で細くまとめられている。

 なのに紺色が広がっていた……

 そこから私が無意識に連想したのは、窓が開いていて、風にカーテンがたなびいている光景。

 だから、窓が開いているのではないかと気になって、確認しに戻ったんです」


「「「「「ほえー……」」」」」


 アルフォンスと3人の秘書官が感心して声を漏らす。


「マリーさん。私が執務室の窓を確認しに入った時、貴女は秘書官室にいたんじゃありませんか?」


「そうです!

 どなたか残っていらっしゃらないかしらと、秘書官室に入ってまごまごしていました。

 ドアが閉まる音でしょうか? なにか前室の方から物音がして、慌ててドアを開けた時には、もうどなたもいらっしゃらなくて……」


 なるほどなるほどとノアルスイユは頷く。


「ここは壁も扉も分厚いですから、私が戻ってきたのがわからなくても無理はない。

 ともあれ、すぐに貴女は、前室のドアにロックがかかっていて、閉じ込められているのに気がついた。

 こうなったら、誰かがロックを解除してくれるのを前室で待つしかない」


 マリーは少し涙目になって頷いている。

 心細い思いをしたのだろう。


「ようやく夕方になって、我々が戻ってきたのですが、貴女は男爵家の令嬢。

 男性と話される時は、必ず身内の方か信頼できる女性と同席されてきたはず。

 そこに、ほぼ他人の男ばかりどやどやと入ってきたのですから、反射的に衝立の影に隠れてしまわれたのではないですか?

 そして、私達が手を離すとまたロックがかかってしまったので、そっと退室することもできず、結局衝立から出るに出られなくなってしまった」


 ノアルスイユはアルフォンスの方を見て、大丈夫だという風に頷いてみせた。

 間諜とは考えられない、ということだろう。

 確かに、底意を持って忍び込んだにしては、行動が胡乱すぎる。


「そ、そうです!!

 さっきから『そうです』ばっか言っちゃっていますけれど、ほんとその通りで……

 ノアルスイユ様、名探偵みたいです!!」


 マリーは目をキラキラさせて叫んだ。


 ノアルスイユは「それほどでも」とか言いながら、うっすら赤くなってしきりに眼鏡を直した。

 マリーの、ピュアピュアな称賛の眼差しがまばゆい。


 もしかして、このまま運命の恋が始まってしまうのだろうか。

 甘酸っぱい予感に、ノアルスイユの鼓動は高鳴った。


「いや、凄いのは凄いんだが、目撃者がノアルスイユ自身なのがなぁ。

 普通に誰かいるのに気づいとけば……」


「僕が最後に出て、勘違いして確認しに戻ったけど、なんで勘違いしたのかわからないってなってるのを、ノアルスイユ先輩に解いてもらえばまだしもでしたね……」


「というか、結局、女官候補がどうかしたんじゃないかとおっしゃった殿下が正解だったってことなんじゃ?」


 三人の秘書官は微妙に不服げな顔をしている。


誤字報告ありがとうございました!!

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