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出社前に黒スーツを尾行してみた

作者: 野川雄一

他人に見せる小説を初めて書いてみました。


読者の目線をイメージしたので、敢えて主人公の名前等の設定や自称はしていません。


自分でも気付いてなかった誤植があったので直しました。

 春だ。

 快晴だ。

「この天気なら学校に行かなくてもいいな。」

 というのは小学生の時の教科書に出てきた読み物の冒頭だったかな。

 でも何故かそんなセリフが言いたくなるような気分だが、社会人としてはそういうわけにもいかない。

 その代わりに、いつもより早く家を出て、回り道をして会社へ向かうことにした。

 曲がったことのない角を曲がってみる。

 いつもと違う店で飲み物を買ってみる。

 塀にいる猫とにらめっこする。

 徒歩通勤だからこそできる楽しみ方である。


 道を急ぐ人達を横目に意味のない優越感を感じながら歩いてると、程なくビジネス街の入口までやってきた。


 街の再開発で、古い建物が取り壊されて、新しい建物がどんどん建てられてきている。

 新しいビルの通りに面した位置には、お洒落なカフェや飲食店が入るようになって、ビジネス街らしからぬ華やかさを演出している。

  

 すぐ先に1台のタクシーが止まった。

 中から降りてきたのは、整えられたグレーヘアが似合う中年の男性。

 背は180センチくらいだろうか。

 姿勢が良いこともあって、ガッチリした体つきに黒のスーツをビシッと決めた姿はとても格好いい。

 その手には有名メーカーの

 炊飯器、、、だけ。


 え?

 スーツケースじゃなくて炊飯器?

 

 実は鞄と間違えて持って来ちゃいました、とかじゃ無さそう。タクシー降りる時にしっかり炊飯器持ってること確認してたもん。


 気になる!この人何者?


 まだ時間に余裕があるので後をつけることにした。

 ビジネス街を颯爽と歩く後ろ姿がサマになる。

 炊飯器さえ持ってなければ、とても優秀なベテランビジネスマンに見える。

 何の仕事してる人だろうか。

 この辺りだと証券マンというより商社マンかな?

 大手企業のコンサルタントかもしれない。

 あ、大手広告会社かも。炊飯器の広告の打ち合わせに向かってる?


 妄想が膨らんでしまう。


 たまにチラチラと辺りを伺う素振りを見せるのが気になる。

 

 何かを心配してるのか?

 いや、あの眼光の鋭さはタダモノではない気がする。

 まさかまさか、ヒットマン?

 対象を探しているのか?

 でも炊飯器何に使うんだよ。炊飯器で殴り殺す?

 あ、魔封波で封じ込めるとか!

 分かんねー。


「!」

 

 自分のすぐ脇でクラクションが鳴り、気を取られた隙に彼を見失う。

 どこに隠れた?

 尾行している事に気付かれたか?

 

 気分は探偵である。

 別に隠れたわけではない。

 角を曲がっただけだった。


 待て待て〜♪


 無邪気に追いかける。


 男はとある建設中のビル工事現場に入っていく。

 む、やっぱり怪しい。


 閉まりかけた扉に駆け寄り、音を出さないように注意しながら素早く滑り込む。

 大丈夫、気付かれてない。

 

 扉近くに置かれている資材の陰に隠れて周りを見渡してみる。

 あの男はここを相手との取引場所にしてるんだろうか。

 実は家電メーカーの新商品サンプルを持ち出した産業スパイで、ライバル企業に売ろうとしているのかもしれない。

 あ、でもそうならあんな堂々と持ち歩かないか。

 いやいや、逆にまさかそんなはずないと思わせる作戦かもしれない。 

 もしかして、炊飯器の中にはお米に見せかけた白い粉があって、それが取引物なのかも。


 何にしろ、すごい現場に居合わせているのかも知れないと思うと、心臓がバクバクする。

 ここで見つかったら命はないぞ。

 プロ相手に太刀打ちできる自信は全く無い。

 しかも自分がここにいる事は誰も知らない。

 この場で消されたって誰も気付かない。

 自分の上にビルが建つなんて嫌だ。

 

 男は工事現場の奥へ進んでいく。

 こっちは見つからないようにそのまま物陰から様子をうかがう。

 別の男が現れた。

 黒スーツの男の顔を見て、現場の男の顔が少し強ばる。

「頼まれたものを持ってきた。これがそうだ。」

 スーツの男が炊飯器を差し出す。

 現場の男が中身を確かめて答える。

「ありがとうございます。みんなの朝飯に間に合ってよかったです。」

「これ持って街中を歩くの恥ずかしかったぞ。知り合いに会ったりしないかとキョロキョロしちゃったよ。」

「すみません、社長にこんなことさせて。まさかみんなの朝ご飯を置き忘れてくるとは・・・」

「現場の士気のためにやるのはいいが、わざわざ事務所で炊いてから持っていかなくても・・・」

「いやぁ、工事現場でお米洗いたくないじゃないですか。それより社長、今日は目つき悪いですよ。相当怒ってるのかとビビりました。」

「急いで出てきたからメガネ忘れてきちゃったんだよ。」

「ど近眼ですもんね。」


 え?え?

 あの炊飯器ってここの工事作業員の朝ご飯だったの?

 あの人社長さん?

 ヒットマンは?産業スパイは?


 ひとまず退散だ。

 このまま見つかったら、それこそ不法侵入で突き出されてしまう。 


 こっそり工事現場から出ようと扉を開けると、さっきは鳴らなかったきしむ音が響く。

 なんでこのタイミングで!

 

 二人に気が付かれたので、現場間違えたバイトのフリでなんとか誤魔化して逃げてきた。

 焦った。


 その後は、本来の仕事の朝会議に遅刻して、上司からしっかり叱られた。

 遅れた理由は、我ながらあまりに馬鹿らしくて言えなかった。 


昨日、出勤途中に信号待ちしていた私の前に止まったタクシーから、炊飯器持ったおじさんが降りてきたので、そこから妄想で書いたものです。

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投稿した翌日なのに10pt頂いていました。

とても嬉しいです。

ありがとうございます。

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