未来へと続く別れ
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
その決心から数時間後の夜明け前。柚は誰よりも早く目を覚ますと、家族や家に泊まった友人達を起こさないように静かに家を出た。闇達がもうすぐ地獄に帰るからだ。
「柚、わざわざ見送りに来てくれたのか」
「うん。だって……」
寂しくないと言えば嘘になる。悲劇的な別れ方をした両親や仲間達との再会。できることなら、ずっと一緒にいてほしいと願うのは当然のことだ。
その気持ちは理解できるが、こればっかりはどうにもならない。
「そんな顔すんな。お嬢はこれから幸せに生きんだろ? なのに、亡霊に引っ張られてどうすんだ」
「そうだよ柚姉ぇ。あ、俺らのことなら心配いらねぇよ。あの後、俺は茅と結婚して、向こうで幸せにやってっから」
「子供同士ですし、お互い咎人で場所も地獄ですから、色々と問題はありますけどね」
サラッと出た結婚発表には驚いたが、彼らもとっくに自立している。
これは姉貴分としてしっかりしなければならない。黒柴の言う通り、寂しいからといって、いつまでも未練がましくしていてはいけないのだ。
「では、我々はこれで。柚様、どうかお幸せに」
「じゃあね柚。いいお母さんになってね」
「柚、元気でな。いつまでも見守ってるぞ」
闇達は別れを告げると、そのまま払暁の光と共に姿を消した。まるで全てが幻だったかのように……
劇的な再会とは打って変わり、呆気ない別れ。彼らがいなくなった空間を見つめ、柚は物寂しくなるが、いつまでも惜しんではいられない。今日は今後の人生を左右する大事な日なのだ。
柚は自らに活を入れるように両頬を2回叩くと、事務所へと向かった。未来へと歩き出すために――――
それから数時間後の午前9時。エピウス国際空港に龍達の姿があった。フローラとルドルフが一足先に帰国するためだ。
「フローラさん、ルドルフさん。今回はありがとうございました。お元気で」
「それはまだ早いかもしれませんわ」
フローラの言葉の真意がわからない龍達は、疑問符を浮かべるが、その意味は至極単純で、彼女らしい自己中心的なものだった。
「龍さん。私の夫となって、共に来てくださらないかしら?」
「え? えぇっ!?」
突然の略奪&逆プロポーズに龍は喫驚し、彼の妻達は猛反対する。が、例によって例のごとく、我が儘お嬢様・フローラの耳には届かない。
「理由は1つ。あなたを観察している内にホレてしまったからですわ。この人こそ、私の伴侶に相応しいと。それに私と結婚すれば、あなたも生涯不自由をすることはありません。お互いにとって、これほど有益なことはないと思いますけど?」
有無を言わせない言い方ではあるが、好意は本物のようだ。それだけに、他人第一な彼がどう答えるか不安が過る者もいたが、
「えっと、その……ごめんなさい。お断りします!」
龍はキッパリと断った。誰も愛してなかった頃だったら、まず出てこなかった返答だ。
「独占欲が強そうなあなたの夫になるのは、少々骨が折れそうですし、未来や澪達と離婚するなんてもってのほかですから」
愛してくれている女を不幸にさせるぐらいなら、目の前にいる女を泣かす。それが複数なら尚更だ。
「……仕方ありませんわね。今回のところは諦めるとしましょう」
「『今回のところは』って、完全に諦めるつもりはないんかい」
「当然ですわ。私、こう見えて欲しがりな上に、執念深いですから」
フラれたばかりだというのに再アタックする気満々なフローラに、雲雀は『目障り』と言いたげな顔をし、拳を握りしめたが、未来に宥められた。
「でしたら、私からも言わせてもらいます」
「何かしら?」
「物事には順序というものがあります。まずはお友達から始めて、お互いを知ってからでも遅くはないかと。それからもう1つ。龍さんばかりではなく、少し視野を広げてみては? あなたの伴侶に相応しい方が、案外近くにいるかもしれませんから。ね? ルドルフさん」
意味深な言葉と共に澪が一瞥すると、ルドルフはわかりやすく狼狽えた。それが意味することはだいたい限られてくる。
そのことにフローラが気付く日がくることを願いつつ、2人を乗せた飛行機を見送った龍達は、その足で龍の店へと向かった。
腹を決めた柚の一世一代の大勝負を見届けるために――――




