皮肉な殺気
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
このままだと、大勢の人が死ぬ。
秩序も何もないカオスな現場に、青年部のメンバーや、鬼の形相で向かってくる紗那に狙われた野次馬は身の危険を感じ、目を強く閉じた。
しかし、彼らが血を流すことも、痛みを感じることもなかった。
警察の前に柚が立ち塞がり、紗那の凶刃から龍が身を呈して守ったからである。
「龍……さん?」
致命傷ではないが、龍を刺してしまったショックで、紗那は我に返ったようだが、群衆の興奮は収まらない。
助かったことに対する感謝は何一つせず、止めなかった警察や刺した紗那を罵倒した挙げ句、『殺せ』と連呼する始末。
その要望に応えるように、源士郎は龍や野次馬に流れ弾が当たるリスクがあるとわかっていながら、警官達に『撃て』と命じた。
この異常な空気に、とうとう龍と柚の堪忍袋の緒が切れた。
「いいかげんにして。でないと殺すよ?」
「あなた達、気は確かですか?」
2人の言葉と共に放たれた静かな殺気に、源士郎率いる警察も野次馬も畏縮し、口を閉ざす。
それだけに留まらず、恐怖のあまり気絶したり、脱兎のごとく逃げ出す野次馬もいれば、『こいつらに殺されるぐらいなら』と、自ら死を選ぶ警官までいる。
殺し屋をやめて3年。ずっと平穏に暮らしてきたはずなのに、殺気だけはその間も力を蓄えていたかのように強烈になっている。
なんとも皮肉な話だが、おかげで全員、正気になったからひとまず良しとしよう。もっとも、一件落着とするには、まだやることがあるが。
「犬飼源士郎。今すぐオフの許可を出して」
「誰が、貴様などの――!」
「まだわかっていないようね。こっちにはペガサス君がいるんだよ? 彼ならここから瞬間移動で日本に戻って、特捜5課に所属している刑事を皆殺しにすることなんて、造作もないと思うけど。でしょ?」
柚の問いに対して、ペガサスは肯定した。
自らの正義を執行する組織を失うことは、源士郎にとって死に等しい。これ以上ない脅迫をされた源士郎は不承不承ではあるが、能力の発動をオフにするよう紗那に命じた。
「……これでいいのか?」
「えぇ。彼女達が刑罰以外で殺されなければ、ね」
「笑えんな。かつて軽くあしらっていた小娘に、ここまでされようとは」
「無駄口も叩かず黙ってて」
特捜5課の命運を握られている源士郎は、屈辱感から舌打ちしつつも従った。




