言葉の暴力
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
こんなことをされると、今度は紗那が黙っていない。
「やめてください! 私は……どうなってもかまいませんから……」
自らを犠牲にして守ろうとする紗那に、源士郎は満足そうな笑みを浮かべる。
「ふっ、賢明な判断だ。なに、まだ殺しはしない。安心しろ」
「それで……私に何を?」
「簡単な話だ。超聴覚と読心能力を全開にしろ。私が『いい』と言うまで切るな。いいな?」
源士郎の指示に了解すると、紗那は嫌な予感が的中した龍達が止める間もなく、自身のデミ・ミュータント能力を発動させた。
すると、彼女の耳や脳内に、
「所詮、名も知られてない政党だな。青二才のくせに分不相応な野望を持つからこういうことになる」
(身の程を知れよ。バーカ!)
(あいつが犯人? あいつのせいで娘がっ!)
「ざまぁねぇな! ハハハハハ!」
(死ね! 死ねっ!)
「死ーね、死ーね、死ーね」
という野次馬や警官達からの心ない言葉や怨嗟の声が響いてきた。1人では到底受けきれないほど膨大な言葉の暴力の波。そんなものを平然と耐えられる者などいない。
「い、いやぁーっ!」
錯乱した紗那は、耳を押さえようとしたが、警官がそれを許さない。手錠がはめられた手を無理矢理下ろされ、取り押さえられる。
「言っておくが、まだ切るなよ。オフにしたとわかったら、子供から順に殺していくからな」
まだ10代にもなっていない部下を死なせるわけにはいかない。紗那は必死に耐えるが、こんなものを聞き続けていては体より先に心が殺されてしまう。
源士郎はそれを承知で指示したのだ。彼女の精神を壊した末に、この場で殺すために。
しかし、そうはならなかった。ある種の防衛本能が働いたのだろう。彼女の心は崩壊する前に、1つの感情に塗り潰された。
「――ないで」
「ん? 何か言ったか? 辞世の句なら聞いてやってもいいぞ?」
「清志郎さんのことを、悪く言わないで! みんな、ひどいよ……そんなひどいことを言う人達なんかっ!」
紗那は怒りに任せて警官を振りほどくと、柚との戦闘で使わなかった包丁を手にし、雄叫びを上げながら野次馬に襲いかかった。
普通なら、市民の安全のためにも警察が真っ先に動いて、紗那の凶行は止めなければならない。なのに源士郎は、
「ふっ、バカな女だ。総員、構え」
と、ただただ嘲笑し、聖民党メンバーを全員射殺するよう指示を出した。




