大嫌いっ!
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
その時、
「やめてっ!」
誰よりも先に声を発した者がいた。黒猫の実子である果林だ。
「どうして? どうしてみんなママをいじめるの!? ママは何も悪いことなんかしてないのにヒドイよ! ママをいじめるおじちゃん達なんか、だーいっ嫌いっ!」
まだ3歳の少女の魂の叫び。母を想う強い気持ちから出た言葉に、全員が沈黙する。
中でも1番心に響いていたのは、ダメな大人達ではなく、守られる立場にある黒猫だった。彼女は文太の手を振りほどくと、果林に歩み寄り、優しく抱擁した。
「……ありがとう。でも、ごめんね。ママは果林が思ってるほどいい人じゃないの」
「ママ?」
「こんな私を庇ってくれるなんて、果林は優しい子ね。ほんとに……ありがとう」
そう言って、腕にギュッと力を入れた黒猫は、娘に顔を見られないようにしながら、申し訳なさと感謝の涙を流した。
幼さ故、母の言動や涙の意味を理解できなかった果林は、キョトンとし、強く抱き締められていることに戸惑う。
「……源士郎さん。これ以上、柚を追い詰めるのはやめてください。柚は今、果林や僕らと共に、必死に生きようとしているんです。その邪魔をしないでください」
夫として父として、家族を守るために青龍は頭を下げた。
その姿に、同じ父親である源士郎は、
「……犯罪者であるお前の言葉など聞かん。が、罪のない少女にここまで言われてしまっては、流石の私でも良心が痛むというものだ。わかった。その子に免じて許してやろう」
と、渋々ではあるが聞き入れた。
あとは嫁も子供もいない独り身の中年だけだが、そこも問題はない。スクープに取り憑かれたハイエナの相手は天馬がしてくれている。
「文太さん。あなたもですよ」
「天使ペガサス……こんなおいしいネタを逃せ、と?」
「えぇ。あなたの書く言葉は、悪戯に人を傷付ける。あなたはそれでいいのかもしれませんが、いつか誰かに恨まれて、復讐されてもおかしくはありません。そうなる前に、初心に帰った方がよろしいかと」
『初心に帰れ』。ペガサスからそう忠告された文太は、面白くなさそうな顔をした。
文太とて、生粋のクズだったわけではない。
寧ろ、新米記者だった頃の彼は、絵に描いたような善人であり、記者としての正義と情熱に溢れていた。それこそ邪な気持ちが入る余地など微塵もないほどに。
しかし、アラサーになると、上層部や政財界からの圧力で思うように仕事ができず、彼は心身共に疲弊していった。
ちょうどその頃、三島由紀夫を始めとする著名人の自殺や芸能人のスキャンダル等が相次いだ。
そういう人間の醜悪な部分を度々目にしたことで、文太の性格は歪んでいき、次第に人を不幸にすることに快楽を覚えるようになっていった。
ジャーナリスト界のハイエナはこうして生まれたのである。
そういった過去をほじくり返され、『初々しかった頃の自分に戻れ』と子供に説教されたのだから、それは不愉快にもなる。
と、同時に、痛いところを突かれたのも事実だ。このまま黒猫の取材を続けたら、高い調査能力を持つこの男とも関わり続けることになる。それはそれでかなり鬱陶しい。
怒りよりもそっちの感情が上回ったことで興醒めした文太は、無念そうに大きな溜め息をついた。
「けっ、わかったよ。もう嗅ぎ回らねぇ」
「本当ですね?」
「あぁ、今度こそ約束する。じゃあな。嬢ちゃん」
それだけ誓うと、文太はハンチング帽をとって振りながら去っていった。
これまでの行動が行動なだけに信用には欠けるが、あんな小物を気にしている余裕もない。タイムリミットがあるからだ。
というのも、聖民党は日本だけでなく、各国の議会にも議席を持っており、今回のテロと同じ手段で他国の政党を排し、世界を牛耳ろうとしている。全世界聖民化計画とはそういうことなのだ。
その計画を進めるために清志郎は、夜9時発の飛行機でアメリカに向かうことになっている。隠密に事を済ませ、被害拡大を防ぐためには、それまでに片をつけなければならない。
ペガサスからそのことを聞かされた青龍達は、思わぬ一悶着のせいで時間を無駄にしたことに対して焦る気持ちをぐっと堪え、静かに作戦を開始した――――




