迷いは悪じゃない
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
と、仲間達が確固たる意思を持って続々と志願する中、いの一番に手を挙げなくてはいけない奴が、二の足を踏んでいた。
「で、龍君は?」
「僕は、どうしたら……」
この期に及んで、龍はまだ迷っていた。
紗那にとって聖民党と清志郎は、かけがえのない大切な存在であり、居場所である。それらを奪ってしまったら、彼女は昔の柚のような悲しい存在になってしまう。
しかし、このまま放置していては、紗那は清志郎の野望の道具として死ぬまで罪を犯し続けることになる。それもまた悲しい。
はたして、どちらが紗那にとって救いとなるのか? その答えが出ず苦悩する龍に、ペガサスは優しく語りかけた。
「龍君、これは僕の失った記憶の中にいる人からの受け売りだけど……迷いを恐れないで。迷いは悪じゃない。迷って迷って迷い続けて、悪しき暗黒の出口に出るか、光輝く聖なる出口に出るかは、君次第だよ」
ペガサスからかけられた『迷いは悪じゃない』。この言葉を反芻し、自分の気持ちと向き合ったことで、龍は目が覚めた。
そうだ。誰も傷付けたくないなんて、優しさじゃない。ただの甘さだ。甘いだけでは誰も救えないし、救いの手が必ずしも無垢とも限らない。互いを傷付き傷付けるような茨だらけの手だとしても、必要なら迷うことなく差し伸べる。それが真の優しさというものなのだ。
その真理に到達した時には、龍の中で答えはとっくに出ていた。
「……わかった。僕、彼女を止める。もうこれ以上、あの人の手足となって、罪を重ねてほしくないから!」
「ふふっ、どうやら光の出口に出たみたいだね」
「それは結末次第だよ。それに正直なところ、また殺人者に戻ることには躊躇いがある。でも――!」
そう言うと、龍は店の奥へ行き、タンスの奥で眠っていたかつての得物・ツインドラコスラッシャーを引っ張り出してきた。
「これで最後にする!」
「お前、まだそれ持ってたのか!?」
「うん。殺し屋だったことを忘れないためにね」
口ではそう言ってるが、刃には錆も刃こぼれも一切なく、現役当時と変わらない美しい状態を保っている。こっちにきてからずっと手入れを怠ってないだけの愛着がある証拠だ。
もっとも、それは龍の得物だけじゃない。雲雀の武器も、柚のヒドラスラッシャーと菊一文字零式・真打もである。今一度それらを手に取った彼女達は、己の得物に自らの決意を誓った。




