久々の再会
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
と、人によっては心が折れそうな経営状態だが、この日ばかりは違うようだ。何故なら――
「あ、先輩達! お久しぶりっす!」
「大牙君! それに、黒田君達も」
大牙とその恋人の透美、それに宙や美夜といった懐かしい顔ぶれがこの国に来ていたからである。
週に2,3人来ればいい方な龍の店からしたら、大繁盛ものである。
「あんたらも元気そうやな」
「まぁねー。で、そっちはどうなの? プライベートと仕事の方は」
「仕事は見ての通りだよ。でも、家庭は順調だよ。大きなトラブルは無いし、こないだ2人目の子供が生まれたところなんだ」
あの龍が、移住して3年で2人の子を持つパパになっている。学生時代の彼をよく知る面々としては、あまりイメージが沸かなかったのか、少し驚きつつも祝福する。
ちなみに、一夫多妻なだけあって子供の母親は同じではない。最初に生まれ、現在3歳になる娘・果林の母親は柚。そして、先日生まれたもう1人の娘・真生の母親は澪である。
そのことに、美夜達は龍がパパということを知った以上に驚く。
それもそうだ。澪はともかく、あの淫乱で生活感のない柚が、ちゃんとお母さんをやってること自体が意外だし、何より娘の年齢が3歳ということは、こっちに来てすぐに生まれたということになる。すなわち――
「あいつ、妊娠した状態であの戦いをしてたってのかよ」
「うん」
自覚症状がなかったとはいえ、凄まじすぎる。当時の彼女の戦いぶりを間近で見ていた大牙はもちろん、透美達も絶句する。
とはいえ、流産しかねないストレスとケガを乗り越えて生まれてきたその子や、母親になった澪と柚の姿は、一目でいいから見てみたい。衝動に駆られた美夜達は、龍と雲雀に家に連れて行ってくれるよう頼んだが、2人とも店を空けるわけにはいかない。そこは忙しかろうが暇だろうが関係ない。
かといって、せっかく来てくれたのに袖にするわけにもいかない。どうしたもんかと考えていると、ベビーカーに真生を乗せ、果林を連れて散歩をしていた澪が、偶然通りかかった。
「あ、皆さん。お久しぶりです」
「ちわっす。王賀先輩」
「あれ? どうしたんですか? 龍さん」
澪が気になってそう尋ねると、龍と雲雀は慌てた様子で人差し指を口の前で立てて、『シーッ!』と言った。
「何、天下の往来で堂々と抜かしとんねん! 忘れたんかアホデコッ!」
「あ、すみません。ですが、何もそこまで怒鳴り散らさなくても……」
その様子を見て、宙達もさっきまですっかり忘れていたみたいだ。納得したように、ポンと手を叩く。
ご存知の通り、ここに移住してきた龍達は、あの一件以降、世間的には死んだことになっている。
なので、何かの拍子で過去を知られないように、龍は竜崎悠斗と名を変え、雲雀達も町の人々に呼ばれていた名前に変えている。
なのに、普通に人前で本名で呼んでは元も子もない。雲雀が怒るのも当然の話である。
というわけで、雲雀からこってり絞られた澪は、美夜達から事情を聞いて、快諾。彼らを家でもてなすことにした。
これで、龍と雲雀は仕事に集中できるし、宙達も新天地に移り住んだ青山家の生活ぶりを余すところなく見れる。万事解決というやつだ。
「そうなると、食材を買い足さなくてはなりませんし、柚さ――いえ、蜜柑さんや明日奈さんにも知らせておく必要がありますね」
「そうだね」
「あ、柚っていやぁ、あいつ、今は何してんだ? お前らのことは、翔馬経由で届いた手紙に書いてあったから知ってるけど、あいつのことは何も……」
柚の現在について気になった宙がそう聞くと、雲雀は自慢気にニタァと笑い、
「あぁそれは、あんたらを驚かそうと思って、内緒にしとったんや。あいつは今、それまでの影みたいな汚れ仕事とは真逆の、誰もが憧れる光みたいな仕事をしとるからなー」
と、もったいぶった感じで答えて、店内にあったあるものを指差した。
初めはピンとこなかった美夜達だったが、程なくしてそこから見えた柚の現在の姿を見ると、今日1番の大声を出すほど仰天した――――