夕映えの告白
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
それから数時間後、ショピングを終えた龍と紗那は、まだ時間に余裕があるということで、エピウス国立展望台に来ていた。
ここは、ドラマの撮影現場として度々使われているが、国1番の高台にある絶景スポットでもあるため、観光名所やデートスポットとしても有名である。
しかも、現在の時刻は午後5時半。沈みゆく太陽の光も相まって、景色の美しさは昼間の比ではない。
そんな素晴らしい景色を目にして、気持ちが高ぶったのだろう。紗那は夕日を見つめながら、80年代に流行ったラブソングを静かに口ずさんだ。
いくら流行に疎い龍でも、往年の名曲ぐらいは人並みに知っている。聞き覚えのあるフレーズに反応する。
「懐かしい歌ですね。お好きなんですか?」
「えぇ。最初は両親の影響だったんですけど、何度も聴いてる内にメロディーと歌詞が胸に刺さるようになってきて、今ではカラオケの十八番になってます」
他愛もない会話だが、それもまたいい。彼女のことを更に知れるのだから。
だが、デートという甘い時間は永遠ではない。終わりの時が近付いていた。
「あの、龍さん。今日は1日ありがとうございました」
「あ、いえ、礼を言うのはこちらの方ですよ。奢ってもらった上に、蜜柑のことまで気遣ってもらって」
「ファンとして当然のことをしたまでです」
「けど……」
どこまでも慎ましい態度をとる紗那に、龍はなんだか申し訳ない気持ちになる。
「それに、龍さん達一家の絆と愛情には負けますよ。私は所詮他人ですから、そこまで純粋に信頼し、愛し合うことはできません……ほんと、羨ましい限りです」
謙遜とは明らかに違う。心の底から羨望し、渇望していることが窺える微笑と口調。その理由を龍は不躾を承知で尋ねたかったが、
「だからでしょうか? 最近、こう思うんです。私も、龍さんの家族の温もりに包まれたらなって」
まさかの告白に驚き戸惑ったことで、質問したいという気持ち自体が霧散する。
「こんな感情、妻帯者である龍さんに抱いてはいけないことはわかっているのですが……私、龍さんのことが好きです」
「で、でも……」
「……そうですよね。急にこんなことを言われても困りますよね? それに、どんなに言葉で取り繕っても浮気は浮気。最低な行為であることに変わりはありません。なので、龍さんが迷惑でしたら、容赦なくフッていただいてかまいません。その時は、少し気まずいですけど、ただの常連に戻るだけですから」
紗那はこう言うが、実際そうなったら、少し気まずいどころの騒ぎではない。
恋愛感情を告白するということは、それまでの関係を壊すということでもある。フラれたからといって、元の常連と店主の関係に戻れる保証はない。
そうまでして、玉砕覚悟で告白したのには、彼女なりの訳がある。
「ただ、これだけはわかってください。どんな関係になっても、私は龍さんのことを愛しています。愛してるからこそ、もっとよく知りたいんです。龍さんの優しさや温かさはどこから来ているのか、それらによって生まれた純粋な愛情は忠誠心とどう違うのか。龍さんなら、それらの答えを持っていそうな気がするんです」
「紗那さん……」
「なので、その……色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします」
深々とお辞儀をした紗那の顔を夕映えが赤く染め上げる。それがまた凛としていて美しく、龍の心は一瞬にして奪われた。
そんなことなど知る由もない紗那は、この後予定があるらしく、『後日、返事を聞かせてください』とだけ言って帰っていった。
残った龍はというと、夕日を眺めながら、目に焼き付いた紗那の美しい姿と今回のデートを含めたこれまでの出来事、彼女の人柄等を何度も思い浮かべて、惚けた。
この胸のときめきは、柚が和歌山で本当の笑顔を見せてくれた時に似ている。あの時は、恋心を殺していたためボンヤリとしていたが、今はハッキリと自覚している。龍は夢中になるほど紗那に惚れたのだ。




