不倫のお誘い
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
遡ること少し前。未来のおかげで無事仕事に出ることができた龍は、暇なことを利用して、今回の爆弾テロとスキャンダルについて考えていた。
スキャンダルの方は、家族一丸となって対処すれば、まだなんとかなるが、問題はテロの方である。目の前で起こったというのに、まるで手掛かりを掴めない。
「はぁ……どうしたもんか」
「お困りのようですね。龍さん」
悩める龍にそう話しかけてきたのは、光一郎だった。
「光一郎さん!」
「例の爆弾テロの件でしたら、警察も捜査が難航しているそうです。爆弾を調べた結果、海外から持ち込まれたということと、時限式ではなくリモコンによる起爆式だということは判明したのですが、それ以外は何も」
彼の口振りからして、指紋とかといった証拠になるようなものは何も残っていないのだろう。リモコン操作ということは犯人も近くにいたはずなのに、それが誰なのかわからないのが、なんとも歯痒い。
「ところで、ここに来る前に、ご婦人方とお子さんが出かけるところをお見かけしたのですが、彼女達はどちらに?」
「雲雀達なら町内会の旅行で島の南側に行ってますよ。日帰り旅行なので、夕方までには帰ってくるかと」
「ということは、働いてるのは龍さんだけ。なのに客足がゼロとは、大黒柱として情けないというか、悲しいですねぇ」
「うぅっ、言わないでください」
光一郎からのイジリに、龍はガックリと肩を落とした。言われなくても自覚はしているが、やはり人に指摘されては傷付くというものである。
だが、心配はいらない。この店には、足繁く通う常連がいる。
「あの……」
「あ、紗那さん。いらっしゃい。今日は何を?」
「いえ、今日は買いに来たのではなくて、差し入れを持って来たんです。例のスキャンダルで大変そうですから」
「あぁ、わざわざすみません。ありがとうございます」
龍は礼を言ってから、紙袋に入った差し入れを受け取った。包装と重さからして、ゼリーの詰め合わせのようだ。
「それで、その、以前の名刺の件のお詫びも兼ねて、ランチをご馳走したいのですが、この後、時間ってありますか?」
紗那からの申し出に対し、龍はそこまで気を遣ってもらうわけにはいかないと丁重に断ったが、日頃のお礼をしたいという常連客の気持ちの方が強かった。
奢ってもらう代わりに、何かプレゼントするということで話がまとまると、紗那は待ち合わせの場所と時間を指定して、店を後にした。
「いいんですか?」
「えぇ。見ての通り暇ですし、1日ぐらい臨時休業したって、バチは当たりませんよ」
「だといいですけど……」
光一郎が気にしているのはそこではない。仕事をサボって他の女と会うなど、嫁の怒りを買う行為であり、ヘタをすれば修羅場になりかねない。
という当たり前のことにすら気付かず、夫婦喧嘩の火種を自ら作ってしまった間抜けな亭主は、午前中で仕事を切り上げると、指定された待ち合わせ場所に向かった――――




