姉御肌の所以
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
そこはシェイラも同じ。ただ、どうしても解せないことがあった彼女は、部屋を出て少ししたところで思い切って尋ねてみた。
「ねぇ、柚」
「何ですか? シェイラさん」
「1つだけ、聞いてもいい? あんた、なんで女優になろうと思ったの? それまでの生き方とは、かけ離れすぎてるでしょ?」
彼女の疑問は、一般人として至極当然な感想と言えるだろう。
裏の世界で生きてきた人間が女優になるなんて、どう考えても飛躍しすぎている。それこそ、トラブルの種を自ら抱えているようなものだ。正常な思考を持つ者なら、その時点で二の足を踏むはず。
なのに、柚は自分の意思でこの道を選んだ。その答えは彼女なりの幸福論が関係している。
「この仕事が、私やみんなが幸せになる最良の仕事、最高の天職だと思ったからです。私はこの国に来るまで、復讐等といった目的のためだけに天然キャラを演じ、コピー能力を使ってきました。けど、大切なみんなが気付かせてくれたんです。私の汚れた才能と能力でも、みんなを幸せにできることがある、と。だから、私はなろうと思ったんです。私のために死んだ人達の分まで幸せになり、私を見た人達に幸せをお裾分けするために。その気持ちは今も変わってません」
これが、不幸を呼ぶ黒猫ではなくなった女優・黒木蜜柑としての彼女の答え。龍達によって人生が変わった彼女がみつけた『幸せ』という名の信念だ。
それを貫こうとする覚悟を知ったシェイラは、フッと笑うと、
「そっか。だったら……」
と言って、柚の背中をポンと叩いた。
「フニャッ!」
「前向いて進みな。んでもって、絶対辞めんじゃないよ。あんたみたいな手のかかる人気者、この業界以外いれるわけないし、いなきゃダメだから」
「シェイラさん……」
「仮にあんたの意思とは無関係に辞めさせられることがあったら、そん時は抗議でもなんでもするし、退職願だっていくらでも書いてやるよ。そんぐらい、あたしもあんたの味方のつもりでいるからね。そこんとこ忘れんじゃないよ」
シェイラはただのビジネスパートナーではない。この国でできた新しい仲間なのだ。姉御肌なマネージャーからのエールを受けて、柚はそう思った。
「ありがとうございます。その時は頼りにします」
「うん。頼りにされちゃう」
そう言って微笑み合う2人は、まるで年の離れた姉妹のようであった。
まぁその後、挨拶とほぼ同時に窓から飛び降り、行きと同じように屋根を駆け抜けていく柚の一連の行動を目にして面を食らうあたり、あくまで『まるで』ではあるのだが。
「はぁ……まったく、今日はあんたに驚かされっぱなしだよ」
どんどん小さくなっていく柚の姿を見ながら、シェイラはやれやれといった感じで言うが、満更でもない顔をしている。
学生時代に事故で妹を亡くしたシェイラからすれば、色々と世話の焼ける柚は、まさに妹のような存在なのだ。
「さてと、あのクソジャーナリストに文句の1つでも言ってこようかな」
シェイラは大きく伸びをしてそう言うと、柚が開けっ放しにした窓を閉めて、事務所へと戻っていった。姉貴分として、マネージャーとして、大切な妹分を守るために――――




