夢を現実にするのは
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
つまり、このスキャンダルが起こる前から、社長は柚の正体に気付いていたのである。
「でしたら、何故その時に私をクビにしなかったんですか? 自分で言うのもなんですけど、厄介の種ですよ?」
「するわけないだろ? 君はあの頃から、我が社だけでなく、このエピウスにとっても必要不可欠な存在となった。そんな才能溢れる逸材を、たった1度のスキャンダルで手離すなど、あまりに惜しい」
自分の活躍をあまり見ない柚からすれば、俄に信じがたいことだが、社長の言うことは間違っていない。
バラエティーに出れば、天然キャラらしいドジでスタジオを和ませ、ドラマに出れば演じる役の細かい心情や仕草まで演じて、視聴者を釘付けにする。
そういった存在の必要性は、業界人である監督もよく知っている。
「はっはっは! 違ぇねぇ。この程度のことで、柚ちゃんが世間から不要になるなんてあるわけねぇわな」
「監督さん……」
「夢? 奇跡? 大いに結構。だがな、そうやって後ろ向きになってたら、本当にすぐ消えちまうぞ。夢を現実にすんのは、諦めて覚めちまうことじゃねぇ。見続けて叶える努力をすることだ。殺し屋をやめて幸せを掴んだってことは、今までもそうしてきたんだろ? 忘れたとは言わせねぇぞ」
監督からの言葉で、柚はハッと思い出した。
自らを蔑ろにし、何もかもを諦めていたかつての自分を諭し、改めてくれた存在がいたことを。その人物はこう言っていた。『君は不幸を呼ぶ存在なんかじゃない! みんなを幸せにしてくれる存在なんだ!』と。
ならば、みんなを幸せにする女優として、やるべきことはなんなのか、柚の中でとうに答えは出ていた。
「社長さん。私の進退の件、保留にさせてくれませんか? 休業中に時間をかけて考えたいので」
「逃げではないんだな?」
「はい」
社長は柚の答えを予想していたようだ。記者会見のタイミングを一任すると、それ以上は何も言わず、彼女の意思を尊重することにした。
柚は寛大な社長にお礼と、今回の件を改めて謝罪すると、シェイラと共に応接室から退室した。その時にはもう、憑き物が落ちたかのような清々しい表情をしていた。
もう心配はいらない。彼女の顔からそう判断した社長と監督は、柚のことを心から応援するのであった。




