マスコミを追い払え
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
その頃、裏口にいるマスコミ達は、柚を含めた青山一家が出てくるのを、今か今かとカメラを構えて待っていた。
今日は平日。オフの柚や専業主婦の澪と子供達はともかく、他の家族は仕事があるため必ず家を出るはず。そこを狙って取材しようとしているのだ。
あまりにもセコいやり方。そんな恥知らずでダメな大人達を止めようと、無垢な手が1人の記者の袖をクイクイと引っ張った。
「ねぇねぇ。おじちゃん達って、もしかして記者の人?」
「あぁ、そうだけど」
「じゃあ、お願い。今すぐ帰って。あたし、友達が悲しむところを見たくないの」
あどけない少女からのお願いに、数人の記者の気持ちは揺らぐが、ノルマや会社命令があるため拒否する。
「ダメだダメだ!」
「お嬢ちゃん、俺らは仕事で来てるんだ。邪魔すんならあっち行ってな」
「でも、あたしの言う通りにしといた方がいいよ。でないとぉ、玄兄ぃが暴れちゃうから」
「は? 玄兄ぃ? んな奴どこに――」
見当たらない人物の名前に、記者が首を傾げると、先程の少女こと乙女は、彼らの目の前で玄とバトンタッチした。
「――おい。てめぇら。てめぇらの目は節穴か? ちゃんとここにいんだろうが」
「へ?」
「乙女が言ってたろ! さっさと帰りやがれ! でねぇと、てめぇらのカメラに水ぶっかけて、1人残らずサンドバッグにすんぞ。オラァッ!」
迫力満点の脅し文句に、記者達は戦意喪失したようだ。機材を壊されたらかなわんと、全員、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
それを見届けた玄は、不敵な笑みを浮かべて携帯電話を取り出すと、正面玄関側にいる仲間に電話をかけた。
「よーし、こっちはオッケーだ。大牙、そっちはどうだ?」
「バッチリっす。俺が地べたを殴ってクレーターを作ったら、みんな慌てて逃げていきました」
そう答える大牙の後ろから、作戦成功を喜ぶ宙と美夜と透美の声が聞こえてくる。その側には帝虎と飛鳥もおり、彼らは皆、龍からのSOSを受けて駆けつけたのだ。
「しっかし、光一郎さんも一緒だとは思いませんでした。しかも、重岡先輩を連れてくるなんて。2人っていったいどういう関係なんすか?」
「知りてぇか? なら、また相手してくれよ」
玄からのお誘いに、大牙はゾッとする。代償のデカさを考えると、ここは聞かない方が賢明のようだ。
「それに、今はそれどころじゃありませんしね。というわけだから、頼めるかい?」
光一郎からの指示に頷くと、電話を切ったタイミングで、朋美が玄と入れ替わり、
「柚さん! いいよ!」
と、柚が住んでる部屋に向かって叫んだ。
その声は、家にいた青山一家全員の耳にしっかりと聞こえた。美夜達と一緒に来ていなかった朋美が、何故ここにいるのかは謎だが、議論をしている暇はない。
黒い猫を身に纏い、ベランダに出た柚は、下にいる朋美に無言で感謝を伝え、龍達に『いってきます』と言うと、シェイラに電話をかけた。
「あ、蜜柑! さっきの『嘘』ってどういうこと!?」
「それについては事務所で話します。心配しなくても、10分ほどでそちらに着きますので、続きはそこで」
「ちょっと待って! あんたの家ってウエストエリアの南西寄りでしょ? 車もバイクも無いのに、そっから10分でなんて、どう考えても無――」
マネージャーはそう言うが、自分のところの女優のスペックを侮ってはいけない。
シェイラが言い終わる前に電話を切った柚は、ベランダから上の階へと飛び上がると、持ち前の跳躍力と速度でマンションの屋上や家の屋根を駆け抜けていった。
黒いボディースーツを纏うその姿は、まさに影や忍のようである。




