厄介者
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
「まぁまぁまあ、フローラ嬢。そう目くじらを立てなくてもいいじゃないですか。僕達としては、いい話を聞かせてもらったわけですし、ね」
最初からいたかのように、光一郎は温和な口調で割って入るが、神出鬼没で謎も多い彼が、常識人みたいな顔をして宥めるなど100年早い。
「そういえば光一郎さん。どうして僕らのことを彼女に教えたんですか?」
「単なる興味ですよ。フローラ嬢とあなたを戦わせたら面白いことになると思いまして。しかし、まさかあそこまでとは。流石は死獣神のエースキラー。瞬殺でしたね」
その口ぶりからして、彼もあの場にいたことは明白。元とはいえ興味本位で殺し屋同士を戦わせて、自分は高みの見物を決め込むとは、全くもっていい度胸である。
「確信がないとそんなことしませんよね?」
「もちろん。僕が買った包丁から指紋と掌紋を採取し、竜崎悠斗=青山龍という確証を得たので、それをルドルフさんに報告させていただきました。それに、僕はあなた方夫婦の死の真相をこの目で見ていましたから」
思いもよらない発言に、あの事件に関わった面々は驚愕した。あの一件に目撃者がいたなんて、夢にも思っていなかったからである。
「……ただのフリージャーナリスト、というわけではなさそうですね」
「えぇ。警察や政財界にそれなりの人脈があると自負しています。ですが、ご安心を。昨日も言いましたが、僕はあなた達の味方です。なので、地元警察に売るようなマネは絶対にしません」
口ではそう言ってるが、いまいち信用に欠ける。かといって、明確な敵意がない以上、邪険にもできない。
どうしたもんかと困っていると、別の厄介者が話に入ってきた。文太である。
「あー、さっき小耳に挟んだんだが、兄ちゃん、俺と同業かい」
「誰? このおっさん」
初対面の美夜がそう尋ねると、柚はバラエティーでの天然キャラを装って、全員に紹介した。
彼の職業と柚がターゲットになってることを知った宙達は怒りを露わにする。
「おい、おっさん。ネコが何かしたってのかよ?」
「いや? まだなんもしちゃいないが?」
「だったら!」
「だがなぁ、匂うんだよ。この嬢ちゃんが隠してる闇の匂いがプンプンとなぁ」
自分の欲望と都合しか考えていないような悪意に満ちた笑顔。醜悪としか言いようがないその顔に、宙達は嫌悪感を抱き、同業者である光一郎は呆れ返る。
「流石はジャーナリスト界のハイエナ。執念だけでなく、記者の勘も一級品というわけですか」
「まぁな。それに顔の広さもな。だから妙なんだよ。俺の知らねぇ同業者が、ここにいるなんてな」
文太の言葉を聞いた龍達は、一斉に光一郎の方を向いた。彼の言葉が見栄から出た虚言の可能性もあるが、もし、それが本当なら、この男はいったい何者なのだろうか? 光一郎に対する疑念がますます強まっていく。
なのに光一郎は、やましいことなどまるでないと言わんばかりに、余裕の笑みを見せた。
「無理もありませんよ。僕は去年、大学を卒業したばかりの新人ですから。知らなくて当然です」
「へっ、そうかい。だったら、忠告しておくぞ新米ボウズ。いいか? 俺の邪魔だけはすんじゃねぇぞ。お前がこれからもジャーナリストとして活動したければ、な」
「えぇ。わかってますよ。あなたが道に反することをしなければ、ね」
どうやら、同業者同士で仲良くする気はこれっぽっちもないらしい。作り笑いをする2人のジャーナリストは、まるで獲物を取り合う獣のように睨み合った。




