僕は虫じゃないのに……
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
ブランクがあるとは到底思えない戦いぶりに、負けたフローラは信じられないといった顔になる。
「そんな……こんなにもあっけなく……これほどまでの強さと殺しのセンスを持ちながら、なぜ殺し屋をやめたのです?」
「あなたの言葉を借りるなら、甘いから、ですかね」
その答えを聞いて、フローラは合点がいったようだ。
「そういうことですか。要するに優しすぎたのですね?」
「えぇ。東京でのある依頼以降から」
「そう……」
納得したように呟くフローラを見て、もう襲ってこないと判断した龍は、ロープカッターを下ろした。
これで彼女も気が済んだはず。面倒事が片付き、無事平穏が戻ってくるとホッと一安心する龍だったが、我が儘お嬢様がもたらす災難はまだ終わってなかった。寧ろ、ここからが本番だった。
「なかなか興味深い方ですわね。ふふふっ、私、決めましたわ。明日から帰国するまでの間、あなたのことを観察させてもらいますわ」
「え? えぇっ!?」
「なんやて!?」
思いもよらない展開に、龍と雲雀は喫驚する。
「言っておきますが、あなたに拒否権はなくてよ」
「そんなぁ……」
「では、私はこれで。行きましょうルドルフ」
肩を落とす龍の意見など、馬耳東風なようだ。一方的に言いたいことを言ってスッキリしたフローラは、ルドルフを連れて優雅に去っていった。
その背をただ見送り、ポツンと残された龍と雲雀は、唖然とするしかない。
「なんて身勝手な人なんだ」
「まったくや。毎度のことやけど、ほんまええかげんにせぇよ。あのオホホ女」
なんて嘆きや文句を言ったところで、彼女の耳には届かない。仮にいたとしても、あの性格では無駄なことだ。
そんな相手から、これからしばらくの間、蝉やカブトムシのように観察される。どんな手段でかはわからないが、考えただけで憂鬱になる龍であった――――――




