決闘申し込み
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の新天地での物語。
「それはそうと、龍さん。お2人の関係性もわかったことですし、そろそろお認めになられてもよろしいかと」
雲雀が先に白状してしまったこの状況では、最早言い逃れはできない。観念した龍は、自分こそがフローラが探している殺し屋・青龍だと認めた。
「いったい誰から僕のことを?」
「天満光一郎さんと田中翔馬さんですわ」
思いもよらないがよく知る人物の名前が出たことに、龍と雲雀は揃って頭を抱える。
「光一郎さんの方は、ただのジャーナリストだろうから、まだ仕方ないけど……翔馬君……」
「あのドアホ、今度会うたらどつき回したる」
「高級ディナーと5億円と混浴で落ちましたわ」
フローラの口から、翔馬を吐かせるための手段を聞いて、なんとなく想像がついてしまった2人は、これでもかというぐらいに呆れ果てた。
「確っ実に混浴がトドメになったね」
「あのドスケベ。2度と使い物にならん体にしたろか」
目先の欲望のために平気で仲間を売った翔馬に対し、雲雀は怒りを滲ませるが、いないバカのことをあーだこーだ言ってても仕方ない。龍は本題に移した。
「それで、そうまでして僕を探していた理由ってなんですか?」
「死獣神のエースキラー・青龍に勝負を申し込むためですわ」
まさかの申し出に一驚した龍は、すぐさま拒否した。
「お断りします。僕はもう殺し屋じゃありません。ここで刃物屋をしながら、家族と一緒に平和に暮らしていたいんです」
「刃物屋……ですか。失礼ですが、あなたはまだ殺し屋だった頃の自分に未練があるのではないのですか? だから、己の得物だった刃物に携わる仕事をしているのではなくて?」
フローラからの指摘が痛いところを突いてくる。否定できないだけにぐうの音も出ない。
反論はおろか選択の余地すら失ってしまった龍は、彼女からの挑戦を渋々受けることにした。
「時間は閉店後から準備の時間を考えて午後6時。場所は……その時間だと島の南側にある陸上競技場がいいですね。他にわからないことがあれば、こちらに連絡してください」
龍がそう言って、連絡先を書いた紙をルドルフに渡すと、フローラは満足したように彼を連れて、店から出ていった。
「えぇんかい龍!」
「仕方ないよ。彼女の言う通りだから。断ち切りたくても断ち切れないんだ。この依存性だけは……」
殺し屋から足を洗って3年。どんなに平和で穏やかな時を過ごしても、返り血に塗れた人生で染み付いた殺人欲求だけは、どうしても消えない。
気が付いたら、もしもの時に備えてとか色々理由をつけて、ドラコスラッシャーの手入れをしてる時があるし、言い様のない殺意に駆られてしまう時も時々ある。
そういった一種の禁断症状が人並みの幸福を得ようとする彼の心を蝕んでいるのだ。
「けど、殺す気はないよ。僕はもう殺し屋じゃないから。ドラコスラッシャーも使わない」
「それで勝つっちゅーんか? 相手は現役バリバリの殺し屋やで? やれるんか?」
「任せてよ。こっちだって死ぬ気はないし、雲雀だって、彼女が吠え面をかくところを見たいだろう?」
「それはそうやな。おっしゃ! そういうことなら、うちもセコンドとしてついてったる。うちが立ち会うんやから、絶対負けたらあかんで。龍」
嫁からの応援に龍は頷くと、まずは仕事を片付けるのが先決だということで、紗那から預かった刃物を1つ1つ丁寧に研いでいった――――




